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石田明生

Author:石田明生
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『ネール塔の乞食』(2)


 ルーヴル宮殿枢機卿の間では、リシュリューがジョゼフ神父と仕事をしています。夜もだいぶ更けていました。赤いガウンを羽織った枢機卿は時間を気にする様子はありません。
 彼は助手が差し出す報告書に素早く視線を投げかけ、時に眉をひそめます。大臣は若かったのですが(注1)、その顔立ちは厳しくほとんど人を寄せ付けない表情をしていました。皮膚の色は黄色みを帯び、肌の感触は厚ぼったく、への字になった口元の皺は、物質界・人間界の苦渋と軽蔑を露呈しています。彼の何気ない振る舞いにも意図的な行為にも、聖職者としての優しさは微塵もありませんでした。
 ノックの音がして、王付きの制服を着た侍従が戸口に現れます。
「猊下、彼らです」
「入るように」枢機卿は言いました。
 ひどくペコペコしながら、三人の男が部屋の中を進み出ました。風采の上がらない男たちで、環俗した修道士あるいは書記組合を追い出された書生といった風情です。
「何かわかったか ? 」枢機卿は先頭の来訪者の顔をじっと見据えて、冷ややかに質問します。
 訊ねられた男は気落ちした様子で首を振ります。
「何にもありません」他の二人は申し訳なさそうな仕草をしています。こんなやつら、お払い箱にしてやろうか !
「何にもだって」リシュリューは甲高い声をあげます。「お前たちが私にどんなふうに奉仕しているか、それがこれだ。何にもだって ! 私は陰謀が準備されていることを知っているのに。お前たちにはわかっていないのか」


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翻訳 | 05:23:13 | Trackback(0) | Comments(0)
『ネール塔の乞食』(1)
 ルーヴルの城と向かい合ってセーヌ河の左岸に、近寄り難く不吉な外観の塔が立っていました。ネール塔です。マザランがそれを解体し四国民の学校(注1)に代えましたが・・・現在そこには学士院があります・・・千六百六十三年まで見ることができました。ネール塔は、正面のルーヴルの塔と同様にパリの城塞の一部とするためにフィリップ・オーギュストの下で建設され、その名前をすぐ近くのネール館からとりました。館は強力なクレルモン家に属し、ネールの諸侯たちの広大な住まいでありました(注2)。
 今語ろうとしている物語の千六百二十六年には、ネール塔はほとんど使われておらず、もはや要塞でも監獄でもありませんでした。何人かの老いた傷病兵が、駐屯地としてではなく住まいとしてそこに寝泊まりしていました。
 陰気な住まいであるその古い塔の裾の部分はセーヌ河に洗われ、建物内の数々の部屋はマルグリット・ドゥ・ブルゴーニュの悲劇(注3)を思い起こさせます。彼女は夫である王の命によりそこで縊り殺されました。一方その不倫相手のドーネイ家のフィリップとゴーティエ兄弟はそこで生きたまま皮を剥がされたのです。
 とはいえ、その場所は最上流階級の人たちが足繁く行き交うところでもありました。球技場のある空き地は河岸沿いを占めてはいましたが、近くには最上位の貴族たちの館が林立していました。その中にはロシュフーコー館もありました・・・広大な庭園の奥には緑の絨毯が続きます・・・


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翻訳 | 10:30:45 | Trackback(0) | Comments(0)
『パリとモンマルトルの伝説と物語』
 以前、パリで買い求めた本『パリとモンマルトルの伝説と物語』[作者Ch. Quinel(1886-1946) et De Montgon(1886-1942)、全部で15篇の短編が収められている]の『サン・ドゥニの首を切った男』と『聖女ジュヌヴィエーヴのメダル』を翻訳した。今回も一つ訳してみた。
原書の短編はほぼ時代順に構成されているが、この度はその順を一挙に飛ばして、17世紀のリシュリュー枢機卿の時代を選んでみた。登場人物はもちろんリシュリュー枢機卿だ。デュマ作『三銃士』では敵役で、ここに登場する「シュヴルーズ公爵夫人」は記憶違いでなければ三銃士のひとりアラミスの友人だったはずだ。
 次のページで、お楽しみください。

翻訳 | 10:15:31 | Trackback(0) | Comments(0)
猛暑
 この度はあまりの猛暑に仮死状態と言っていいほどの毎日だ。先週の火曜日(7/31)が最終日の登校だったから、それ以降1週間近く家で缶詰状態になってしまった。毎日、クーラーの部屋で読書とテレビとパソコンとむきあっている。
そんな中、先週読み切った長編『モンソローの奥方』(アレクサンドル・デュマ著)は『王妃マルゴ』に匹敵する面白い物語だった。なにしろ、660ページほどの分厚さに加えて、二段組ときている。たっぷり楽しめた。
 時代は『王妃マルゴ』に描かれた時代の直後、「三アンリの戦い」の真最中だ。その間隙を縫ってアンリ三世の弟アンジュー公が王位を狙う。彼は、ポーランド王となった兄アンリがとんぼがえりをして、崩御した兄シャルルの王位を襲ったために王になり損ねたのだ。そのために屈折した野心を抱いている。
 そこに、公の腹心ビュッシー伯とモンソロー伯とのモンソロー伯爵夫人をめぐる恋の鞘当てとアンリの取り巻き(寵臣たち)との闘争が絡む。文字通り、血で血を洗うチャンバラ劇が展開される。題名ともなっている「モンソローの奥方」ことディアーヌはもちろん絶世の美女なのだが、モンソロー伯の妻とはいえ形ばかり、いわば「白い結婚」状態にある。彼女はある陰謀によって伯爵の妻になったのだが、心はビュッシー伯にある。ビュッシー伯は当代きっての剣豪で美丈夫、まさに小説の主人公にふさわしいキャラクターなのだが、完璧な主人公かと言われたら、? を投げかけざるを得ない。同様にディアーヌについても言える。ほかにも魅力的な登場人物が目白押しだ(とりわけ王付きの道化師シコ)。だが、これから読むかもしれない方々のためにあまり内容に踏み込まない方が良いだろう。この書の欠点は、訳者の好みかどうかは知らないが登場人物紹介が喋りすぎていることだ。
 翻訳の問題もあるだろうが、急ぎの仕事だったのだろう、文体は荒削りの感がある。
        『モンソローの奥方(La Dame de Monsoreau)』(日本国書刊行会)小川節子訳

日常スケッチ | 06:39:02 | Trackback(0) | Comments(0)
13人ということ
  先週、オウム真理教の幹部7人が処刑された。教団の中で死刑が確定しているのは13人と聞く。つまり、まだ6人いるということだ。 仄聞によると、死刑というものは、金曜日の朝告知され実行されるそうだ。今日がその金曜日(ちなみに13日の)、残りの6人の運命は果たしてどうなっているのか。
 13人といえば、南の遠い国では、洞穴に閉じ込められた13人が海軍の力で救出された。こちらの13人ニュースは底抜けに明るいニュースだ。大人のコーチ1名と高校生のサーカー少年の12人だそうだ。この13人という構成が面白い。聖書を紐解けば、最後の晩餐もコーチに当たるイエスとその弟子たち12人で構成されていた。この形は定型といってもいいのだろうか。
 というのも、オウムの死刑囚たちの構成も、リーダーの麻原を中心にした12使徒の形になっている。もしも、残りの6人を処刑したなら、処刑された13人はまるでイエスとその弟子たちという姿を帯びやしないだろうか。そして、麻原の神聖化ということになりはしないだろうか。オウム真理教の事件は、処刑という単純な手段で解決できるものではないことは確かだ。

雑感 | 09:20:42 | Trackback(0) | Comments(0)
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