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石田明生

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『聖女ジュヌヴィエーヴとメダル』
 パリの物語の第二弾は、『聖女ジュヌヴィエーヴとメダル』です。やはり長いので何回かに分けて掲載します。

1. 羊飼いの娘、ジュヌヴィエーヴ

 「こっちよ、フィデル。静かにしていてよ。いけない犬ね !」
 でも、フィデルは不安げでイライラして、でたらめに羊たちをしつこく追い回していました。一方、羊は羊でまた、不安に煽られているかのように、メエメエ鳴いて、互いに身を寄せ合うばかり、小さな花が点々と咲いた柔らかな草を食もうとさえしませんでした。しかもその花々でさえ、何か大惨事でも予感しているかのように、身を縮めていたのです。
 この羊の群れの番をしている羊飼いの小娘は、四つ脚をした自分の家来がみんな、今日はどうして変なのか不思議でたまりません。八歳になったばかりのジュヌヴィエーヴは、今までと同様、ヴァレリアヌス山の麓に広がるサン・クルーの丘に羊の群れを連れて来て、草を食わせていました。ここは彼女の家からたっぷり四分の一里ほどのところです。
 この群れは、正確に言うと十匹の子羊を含めて、二十三匹ほどの群れでした。これは実直な木こりであるジュヌヴィエーヴの父親の財産のほとんどでした。父親は、遠くまで広がる、抜け出るのに何日も何日もかかるほど大きな森で働いていました。母親は三年前に亡くなっていたので、ジュヌヴィエーヴはちょっとした家事仕事をしたり、大好きな動物たちの世話をして父親を手伝っていました。

(注) ヴァレリアヌス山: パリのすぐ西にある小高い山、現在ヴァレリアン山と呼ばれる。

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翻訳 | 15:47:46 | Trackback(0) | Comments(0)
『サン・ドゥニの首を切った男』(3)
 衛兵たちが、鎖に繋がれた三人の男を、牢代わりとなっていた神殿から外に出した。最初に出てきた二人は民衆によく知られていた。町の名士だったのだ。一人はリスビウスと言って、もとの総督で、みんなの尊敬を享受していた。彼は地位にふさわしい豪華な衣をまとっていた。
 続いて、富裕な商人のクレスピドゥスがやってきた。ルテティアには立派な住居を、セーヌ左岸には豪華な別荘を所有していた。彼はその善意と寛大さで有名だった。常に貧しい人たちに援助の手を差し伸べる用意があり、苦境に陥った人たちのために人助けをしていた。その好人物の姿を目にすると、群衆からざわめきの声が上がった。彼は緋色の縁取りのある見事なトーガを着ていた。元老院の地位にあったからだ。
 三人目は老人だった。背筋のまっすぐな、痩せこけて白いあご髭の老人だった。長い麻のチュニカを着て、指には一つだけ指輪が光っていた。
 「ディオニシウス司教様だ」誰かが囁くと、何人かの女たちが「ディオニシウス司教様」と小声で繰り返した。

(注)ディオニシウスはドゥニのラテン語読み

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翻訳 | 15:17:24 | Trackback(0) | Comments(0)
『サン・ドゥニの首を切った男』(2)
2.

 彼がメルクリウス神を祀る神殿が厳かに立つ目指す丘のてっぺんに到着すると、すでにたいていの場所が占領されていた。が、彼の友人、熊使いのベッラが自分の隣の草地の一角を彼のために確保しておいてくれた。チュバルデュスはそれですっかり上機嫌になった。そこは、神殿に登る階段のちょうど一段目で、申し分がなかった。細民と関わり合いたくない上客たちがよく佇むところだったからだ。煩わされることなく、その人たちは彼の芸を見ていられるし、芸が終われば必ずや彼の広げたマントにセステルス銅貨を投げ込んでくれるだろう。あるご婦人などは、彼の芸にだけでなく彼の押し出しにのぼせ上り、一ドゥニエ銀貨を投げ入れたことがあったほどだ。


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翻訳 | 17:48:05 | Trackback(0) | Comments(0)
『サン・ドゥニの首を切った男』(1)
 四月に入って、いろいろな原書を読んでいるうちに、ふと物語の翻訳がしたくなった。もちろん面白い本が見つかったからだ。作者は、Ch. Quinel(1886-1946) et De Montgon(1886-1942) という私にとっては知らない作家だ。以前、パリで買い求めた本で、タイトルは、『パリとモンマルトルの伝説と物語』、全部で15篇の短編が収められている。
 まずは最初の物語、『サン・ドゥニの首を切った男』を紹介したい。サン・ドゥニは、パリの守護聖人で、両手で首を抱えて歩く彫像で有名だ。また、彼がその首を抱えて倒れた場所が、現在のパリの北にあるサン・ドゥニ聖堂だったとも言われている。

サン・ドニの像 モンマルトル
モンマルトの丘、 シュザンヌ・ビュイソン小広場(Square Suzanne Buisson)にあるサン・ドゥニの像。
ちなみに Suzanne Buisson(1883-) は社会主義者で、対独レジスタンスの闘士として活躍したが、
ゲシュタポに逮捕される。ドイツの地で死を迎えたらしいが、没年月日は明らかではない。


※ 長いので、3回に分けて連載します。

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翻訳 | 06:20:23 | Trackback(0) | Comments(0)
『鍵と錠前 des clefs et des serrures』
 『鍵と錠前 des clefs et des serrures』という変なタイトルの本がある。昨年、91歳という高齢で物故したフランスの作家ミッシェル・トゥルニエMichel Tournierが、1983年に出した随筆集(エッセー)だ。表紙をめくると5€と鉛筆で手書きされていた。だいぶ以前、毎週日曜日に古本市の立つ、パリのブラッサンス公園で買ったものだ。買ったことも忘れていたこの本を先日部屋で見つけ、何気なく読み出したら、ひどく面白い。様々なテーマを2・3ページの長さで、豊かな知識と想像力を駆使して分析あるいは統合、敷衍あるいは凝縮している。文章は少々どころかかなり難解だが、知的好奇心と惰眠を貪っているわが詩情を刺激する。
 第一番目に表題の『鍵と錠前』というエッセーが来ているが、とりあえずここで紹介したいのは、『エロチックな画像(イメージ)L’image érotique』という文章だ。高度なエロチスムについて『不思議の国のアリス』で有名な作家ルイス・キャロルをまな板に載せて書いている。

鍵と錠前の表紙          ルイス・キャロルの写真
『鍵と錠前』の表紙とルイス・キャロルの撮った写真




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翻訳 | 15:20:54 | Trackback(0) | Comments(0)

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