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外来語こぼれ話(3)・・・アパート 対 マンション 対 アパルトマン
 さてだいぶ横道にそれてしまった。軌道修正しよう。
 また、定着したかどうかわからないので上に挙げなかったが、バブル時代の不動産屋さんが物件を豪華に示すために用いた「メゾン maison 家」「ヴィラ villa 豪華な別荘」「シャトー château 城」というフランス語もおもしろい。これを僕は言葉のインフレーションと呼んでいる。どんどん言葉だけ豪華になる現象だ。
 これは社名だが、「セ´ザール César カエサルのこと」という、ご丁寧にアクサン記号までカタカナ表記にほどこした会社まで現れた。しかしもっとビックリしたのは、建売り住宅のことを「プレタメゾン」と和製フランス語を使って売り出したことだ。もちろん高級既製服「プレタポルテ」のノリだろうが、この言葉のインフレにはバブル時代の凄さが感じられる。prêt à porter とは「着る(porter)用意のできた→既製服」の意味だが、prêt à maison となるとどうなるのか。


 不動産屋さんの外来語導入は過激だ。
 かつてアパートという単語が使われ過ぎて疲労した時、彼らはアパートに高級感を与えるためだろうか、「マンション」なる英語を用いて、活性化を図った。だから、集合住宅の賃貸ではない(と思われる)高級なアパートはアパートではなく、マンションと呼ばれるようになる。
 僕が初めてこのマンションという単語に遭遇したのは、アメリカン・フォークの『七つの水仙』の歌詞でだろうか、それとも巷にあった不動産広告だったろうか。ほとんど同時だった。もしかしたら、「マンション」と呼んだ仕掛人はこの歌が好きだったのではないか。フォークソングの歌詞では「私はマンションをもつことはないだろう」と歌われている(その代わり「七つの水仙がある」とつましく落ち着くのだが)。そのマンションなるもの、当時調べたところものすごい大邸宅なのだ。もちろん、歌の中で歌われている内容は問題がないのだが、その「マンション」がやたら不動産広告に現れたからただごとではない。しかも、「マンション」は一戸建ての高級住宅と思っていたので、集合住宅、つまりアパートを指しているので驚いた。
 その時は「賃貸ではない高級アパート」という定義で、内心納得したことを覚えている。それから時は過ぎて、驚くべき表現に出会う。
 「賃貸マンション」
 それどころか驚き覚めやらぬ頃、高級なアパート、と内心思っていた定義が総崩れになる事態が起こる。友人の引っ越しを手伝ったときだ。これから入る新居を示しながら、彼は恥ずかしそうにぼそっと言った。
 「○○マンションと書いてあるけど・・・」
 見ると確かに、単なる二階建ての集合住宅に過ぎないではないか。そんなことがあってしばらくすると、折りも折り、建築ラッシュだったせいもあり、雨後のタケノコのように「マンション」が建つ、建つ。新たな集合住宅に「○○荘」とか「○○アパート」という呼び名は皆無となり、すべて「○○マンション」や「マンション○○」になり、「マンション」の定義は完全にわからなくなる。先ほどのフォークソング『七つの水仙』の歌詞「私はマンションをもつことはないだろう」という一節はどんなニュアンスになるだろう。かつて『アパートの鍵貸します』というアメリカ映画があったが、今ならさしずめ『マンションの鍵貸します』となるのか。
 フランス語の授業で「アパルトマン」なる単語が出てきて、それを説明していると、時々学生から質問を受ける。
 「先生、フランスにはマンションはないんですか?」
 その場合、まず「マンション」はフランス語ではなく、英語であることを確認する。というのは、意外とフランス語だと思っている人が多いからだ。
 たぶん、「ジャンパー」と「ブルゾン」の対立から来る「高級化現象」が「アパート」「マンション」にも起こっているのだ。つまり同じ製品でも、使い古された英語で表現するよりも、耳新しいフランス語で表現することにより、高級感を持たせる現象だ。「チョコレート・ケーキ」に対して「ガトー・ショコラ」がそうだ。また古くは「ミルク・コーヒー」や「コーヒー・ミルク」に対して「カフェ・オ・レ」、もっともこれに関してはさらにイタリア語の「カフェ・ラッテ」まで突き進んでいる。この手の現象は、僕にはよくわからないが、きっと女性用の下着などにもしばしば起こっているかもしれない。
 ところで繰り返すが、「マンション」は、フランス語ではない。だからといってフランスに日本的な「マンション」がないというのではない。集合住宅の各住居はみな「アパルトマン」と言っているだけだ(強いて言えば「レジダンス」と言うと高級感が漂う感じがする)。
 この「アパルトマン」という言葉は、バルザックなどの19世紀小説を読んでいるとよく出て来る。その場合、貴族の屋敷(フランス語で hôtel と言う)内のそれぞれ独立した住まいを意味する。だから、貴族の屋敷内には必ずいくつかのアパルトマンがあり、それぞれ住居として独立している。日本語に訳すとき、適切な日本語が見つからない。
 主人が泊める客に「これがあなたのアパルトマンです」と言う時、「あなたの部屋です」と普通訳されている。該当する日本語がないのだから、仕方ないだろう。時々アパルトマンとルビ(注)を付けているのを見かけることがあるが・・・
(注)) ルビという外来語は英語だが、これもおもしろい。ルビーとするともちろん宝石の一種で紅玉のことだ。「ルビ」は小さなポイントの活字のことで、日本ではふりがなを意味する。どちらも原語は ruby だから、ミシンとマシーンのように同じ英語を発音違いで使い分ける部類の外来語に入る。なぜ紅玉が印刷の活字と関係あるかって?
 むしろ僕が専門家の人に聞きたいくらいだ。これは英語の問題だからだ。英語では活字のポイントを数字以外で呼んだようだ。しかもその呼び名に宝石の名前を用いた。すべてではないが、たとえば brilliant(3 1/2)、diamond(4 1/2)、pearl(5)、ruby(5 1/2)、nonpareil(6)、emerald(6 1/2)などだ。この中で、日本語のふりがなに適切なポイントだった「ルビ」がふりがなのことになったというわけだ。

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外来語こぼれ話 | 08:52:59 | Trackback(0) | Comments(0)
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