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外来語こぼれ話(5)「自由な蚤」と「おしゃべり猫」
 話がだいぶそれてしまった。ワンルーム・マンションのことだった。こういうひと部屋のマンションをフランスでは、「スチュディオ studio」と呼んでいる。原語を見ればお分かりのように、英語や日本語ではこれは「スタジオ」で、マンションとはほど遠い、仕事場、放送室のことだ(フランスのスチュディオにもスタジオの意味もあるが)。
 「アパマン情報」という雑誌があるが、あれはきっと「アパート・マンション」の省略語にちがいない。まさか「アパルトマン」の縮小ではないだろう。だが、アパートが死語になれば元の意味が分からなくなるかもしれない。アパートが前回にあげた「半ドン」並みの死語になるにはまだまだ相当の時間がかかるとは思うが。
 ところで、この縮小語というのが日本の外来語受容史の中で独特の位置を占めている。時代の流れとともに、情報をなるべく短い時間に大量に送る必要に迫られれば、どうしても縮小・省略語が多用されることになる。


 だが、この縮小・省略語の欠点は元の意味が分からなくなる恐れがあるということだ(元の意味など分からなくとも使えればかまわないかもしれないが)。
 たとえば、「ファックス」は普通 fax と書かれているが、もともとは facsimile だから、相当姿が違っている。ちなみに、fac はラテン語の facio、フランス語の faire の意味に当たる接頭語で「作る」、simile はラテン語の similis 「似たもの」、シミュレイション simulation の同族だ。フランスでも fax は用いられるが、télécopie という。この「テレコピー」、 télé は「遠」を「 copie」はコピーを表すから、意味が分かりやすくていいのだが、縮小語が作りにくいという欠点がある。まさか télé にはできまい(「テレビ」の意味)。もちろん、「コピー」とするのは論外だ。結局、ファックスがよく使われることになった。
 きっと将来、ファックスが省略語と認識されなくなり、言語学者しかその分析ができなくなる時代が来るかもしれない。思えば、現在使われている言葉もそういう歴史を背負って来たのだ。
 たとえば、「シネマ cinéma」という外来語があるが、映画が発明された頃(1895年)は、「シネマトグラフ cinématographe」だった。それがすぐ「シネマ」となったのはわかるが、現代のフランス人はそれでも冗長に感じるのだろうか、今では「シネ ciné」としばしば省略する。驚くべきことに、この「シネ」は日本の映画館の名前にもなっている。日比谷の「シャンテ・シネ」や六本木の「シネ・ヴィヴァン」がそれだ。
 「アパ・マン」的なものに「フリ・マ」がある。最初なんだろうと思ったら、「フリー・マーケット」の省略だった。この外来語は、いつか新聞で読んだことがあるが、元の意味を一番勘違いされている言葉だそうだ。
 パリの北に、このブログでも紹介したことのある「蚤の市」が広がっている。この「蚤の市」、フランス語で Marché aux Puces (マルシェ・オ・ピュス)と言うが、これを直訳して、英語では flea market となる。flea は「蚤」だから、「蚤の市」ということだ。ところが、日本人には free と flea の音が同じに聞こえるのだろう。自由に売り買いできる自由市場と勘違いしているひとが相当数いるようだ。確かに、間違いやすい外来語ナンバーワンなのはうなずける。この地位は当分続くかもしれない。
 アパ・マン的外来語といったら、毎日のように使っている「パソコン」がある。もちろんこれは「パーソナル・コンピューター」の省略で、知らない人はいないと思われるが、意外とこれが油断できない。
 というのは、コンピューターの出始めの頃、computer はまず巨大な計算機だった(筈だ)。というのは「コンピューター」とは計算機の意味だからだ。パリの「アール・ゼ・メチエ工芸博物館」だったと思うが、その初期の計算機を見たが(後に言及するが、計算機を表すのにフランス語では computer 系の言葉を使わない)、畳なん枚か分のそれはそれは巨大な機械だった。個人で所有し、個人で扱うなど論外の代物だ。苦節何十年、技術者の方々のたゆまぬ努力が、単なる計算機から「電脳」へと発展させ、ひと部屋分の図体を個人用のサイズにし、一人ひとりが所有することにより威力を発揮する「パーソナル」なものにしたのだろう(これは機械音痴の貧しい想像です)。
 だから、personal computer という呼称には、まるで月世界旅行に匹敵するような、技術の躍進の成果が込められている。そのためだろうか、今や、コンピューターはほとんどすべて個人用もしくはそれに近いものになってもその呼称に「パーソナル」をはずさないのは。
 それがどうも違う気がするのだ。「コンピューター」が「パーソナル」になったときから、少なくとも一般的には「パーソナル・コンピューター」ではなく、「パソコン」と呼ばれたのではないだろうか。僕の記憶では「パソコン」を話題にしてこの長いフルネームで会話をした記憶がない。「君、パーソナル・コンピューター持ってる?」なんてきいたこともきかれたこともない。このフルネームを口にするときはむしろ逆で、「パソコンはパーソナル・コンピューターの略だよ」というフレーズで使われていたような気がする。
 パソコンが「パーソナル」という修飾語が要らなくなっても、単に「コンピューター」と言わずに「パソコン」と呼び続けているのが分かる気がする。第一「コンピューター」という発音は長ったらしいし(「パソコン」のほうがピシッとしている)、何よりもコンピューターという単語には計算機のイメージがつきまとう。結局、「パソコン」はコンピューターを指す、日本で造語された立派な日本語ということになるのではないだろうか。だから近い将来、「パソコン」はなんの略かという問いかけがなされなくなるかもしれない。パソコンはパソコンなのだから。あるいはこう訊ねてもいいかもしれない。「パソコンって、英語でなんと言うの?」(注)

(注) チップなどに入れる極小のコンピューターはマイクロ・コンピューター、省略して「マイコン」だ。これもいろいろなところで活躍している。
 ところでこの「マイクロ」という英語の外来語もいろいろな荒波にもまれて来た。もともと「小、極小」を意味するこの接頭語は、今やあまり小さく感じないから不思議だ。たとえば、「マイクロフォン」はどうだろうか。短縮して「マイク」と読んでいる。この縮小語はてっきり日本語かと思ったら英語だった。micro を mike としたらしい。フランス語はそのまま micro だから「ミクロ」となる。技術的なことはわからないが、いずれにしても、あまり小さいものとは思われない。
 また、「マイクロバス」はどうだろうか。これこそどう考えても小さい気がしない。ちなみにフランス語でも microbus と言ったようだが、minibus とも言う。まさにミニバスの方がしっくりしている。
 おもしろいのは、日本人が同じ「小、極小」の接頭語でも、「マイクロ」よりも「ミクロ」の方が小さく感じるということだ。昔、アメリカのSF映画に『ミクロの決死圏』という、おもしろい映画があった。原題はわからないが、日本語タイトルを考えるとき、『マイクロの決死圏』としなかったのは、「ミクロ」のほうが迫力があると思ったからではないだろうか。


 ちなみに、パソコンはフランス語で ordinateur と言う。英語の computer とはだいぶ様子が違うので、あれって思うかもしれない。それよりもなによりも、「コンピューター」という呼称が世界共通語と思っている人がいるようだが、そういう人にとっては驚きかもしれない。先ほども言ったが、computer は計算機から来た単語だ。一方、ordinateur はラテン語の ordo つまり、英語の order 系の言葉で、「整理、秩序、順序」を意味する。だから、パーソナル・コンピューターは ordinateur personnel(individuel) となるが、たぶん、今はいちいち「パーソナル」を付けていないだろう。ちなみに、計算機は calculateur という。
 パソコンに関する用語は日本では英語の呼称をそのままカタカナ表記をしているが、フランスでは、英語と共通語はそのままだが(たとえば icon は共通だ。ただし「アイコン」とは読まない。「イコン」)、異なる場合はフランス語を使っている。たとえば、「マウス」はネズミだからフランス語の souris(ネズミ) と言う。おもしろいのは、「チャット」という言葉だ。さすがにフランス人もこの「おしゃべり」を表すフランス語 bavardage は冗長で使いにくかったのだろう。それに対して「チャットchat」は短くて、直球のような明快さがある(もちろん日本語の「おしゃべり」もしまらない)。だから、フランスでもこの「チャット」はインターネット上でよく使われている。が、ひとつ問題がある。というのは、この chat 、フランス語で「猫」の意味だからだ。多用すると画面上猫だらけということになってしまう。
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外来語こぼれ話 | 23:33:33 | Trackback(0) | Comments(0)
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