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石田明生

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映画『コーラス』の主役、モニエ少年のボーイソプラノの効果
 またまた『愚者たちのコンサート(ソワレ・デ・ザンフォワレ)』(2005年)から、すてきな曲を紹介します。『誰に権利が? Qui a le droit?』という歌です。
 チャリティーコンサートにもかかわらず、あるいはだからかも知れませんが、概してどの歌も緻密な計算により演出されている感がしますが、特にこの歌は心憎いばかりの演出がなされているように思われます。

Bruel piano.JPG


 舞台上に一台のグランドピアノ。
 三方に礼をしてピアノに向かい、素早く前奏を弾き始めるパトリック・ブリュエル。

《「Qui a le droit」を歌うパトリック・ブリュエルのライブ映像が次のURLをクリックすると見られます》
http://www.youtube.com/watch?v=xxLYg2ClPsM


 On m'avait dit...(よく言われたものさ) と歌いながら、ピアノのところまでやって来るザジ。
 次いで A quoi ca sert...(なんになるの) と歌を引き継いでピアノにゆっくりと歩み寄るイザベル・ブーレイ。

Corneil et Zazie.JPG

コルネイユとザジ

 後ろを On m'avait dit... と歌いながらピアノの傍らにやって来るコルネイユ。
 Maman m'a dit...(ママはこう言った)と歌をつないで、拍手に迎えられながら登場するガルー。
 ピアノの手前にある地下からの階段を登りながら Qui a le droit... (誰に権利が?) Qui a le droit... (誰に権利が?)と歌って、澄み切ったボーイソプラノをホールいっぱいに響かせるモニエ少年。

Maunier montant

モニエ少年

 その美しい声は拍手と渾然一体となり、歌い手たちの登場を完成させます。

Corneil et At Pier.JPG
イザベル・ブーレイとコルネイユ
Garou et St Pier.JPG

ガルーとイザベル・ブーレイ

 四人の大人はピアノの傍らに立ち、少年はピアノ奏者の横に腰をかけます。

全員.JPG

 ピアノ奏者(ブリュエル)を含めた五人の絶妙な掛け合いのような歌い方に、聴衆は完全に魅了されてしまいます。彼等の発音は誰もがすばらしく、フランス語の音の美しさをつくづく感じる瞬間です。そして歌詞が訴えかける内容の重みが伝わってきます。

Garou et At Pier.JPG

ガルーとブーレイ

 また、間奏曲の代わりに、聴衆たちが手を上げて、その手をゆっくり稲穂のように揺らしながらリフレインの箇所をアカペラで一緒に歌います。こうして会場全体が一体化するのも感動的です。

聴衆.JPG


 最終フレーズをモニエ少年が起立して歌い、そのボーイソプラノで聴衆全体を少々オーバーですがエクスタシーへと導いて、締めくくります。

Maunier seul 2.JPG

モニエ少年

 ところがその時不思議な現象が起ります。歌い終わった後の大人の歌い手たちの、とりわけブリュエルの少年を見つめるその姿から、歌詞の内容は完全に裏切られ、大人の子供を慈しんで見る、そのまなざしの普遍性のようなものが感じ取れるのです。
 パラドクス・・・そうです。歌詞の内容と大人と子供のコンビネーションはここでは完全に、パラドキシカルなものとなっています。なぜなら、詩の内容は、読んでいただければおわかりのように、子供の大人への不信、大人の子供に対する欺瞞が主題だからです。
 どうしてこんなことが起こるのでしょうか?

Naunier seul.JPG

最終フレーズを歌うモニエ少年

 実はこの歌詞はバトリック・ブリュエルの子供時代を歌ったものと思われます。それは、本来「坊や」と歌うベきところをザジが「パトリック」と歌っていることからもわかります。その時ピアノを弾きながらブリュエルははにかんだ表情を見せています。
 確かに歌詞に歌われているようにブリュエルは小学教師の母親の女手ひとつで育てられました。何度「大きくなったら、わかるよ」と言われたことでしょう。彼は独立直前のアルジェリアで生まれ(1959年)、独立後母親と二人してパリ近郊のアルジャントゥイユに引っ越して来ました(63年、母子二人の静かな幸せは彼が十一歳の時、瓦解します。というのも、母親があるブルジョワと再婚し、彼は疎外感を味わっていましたから)。
 ですから、この大人への不信感はブリュエルの幼年時代の体験そのものと言えるでしょう。それをモニエ少年が彼の目の前で昔のパトリックとして歌い上げるのです。ピアノを伴奏する大人のブリュエルは子供時代のパトリックと完全に一体化し、大人への不信感や子供に対する大人の欺瞞というこの歌のテーマは雲散霧消してしまい、大人の子供に対する慈しみの念が残り香のように漂います。

慈しみのBruel.JPG

歌い終わったモニエを見つめるブリュエル

 大人への不信感を抱いていたパトリックも、今や二児の父親となっています。
 この美しい曲はピアノの伴奏をしているパトリック・ブリュエルとジェラール・プレギュルヴィック(1953年生まれ)のコラボレーションから生まれました。ですから、たぶん作詞はブリュエルで、作曲はプレギュルヴィックでしょう。とすれば、この歌詞はプリュエルの私小説的なものと言えます。もちろんその反対も考えられますが。

《次のURLをクリックすると、映像と音楽を楽しめます》
http://www.youtube.com/watch?v=Ee6KbCjRLyk


 ジェラール・プレギュルヴィック(1953年生まれ)はミュージカル・コメディー『ロメオとジュリエット』の作詞・作曲者として、日本でもお馴染みかも知れません。今年惜しくも若くして物故した本田美奈子さんがレパートリーに入れていましたね。
 彼はフランスでは大変有名な作詞・作曲家です。アンリ・サルヴァドール、ミレイユ・マチウ、リアーヌ・フォリーたちにも曲を提供しています。
 ちなみに四人目に登場するガルーはミュージカル『ノートル=ダム・ド・パリ Notre-Dame de Paris』(1997年)のカジモド役で、世界的なスターになりました。彼はカナダはケベックの人です(1972年生)。
 また、イザベル・ブーレイも1972年生まれのカナディエンヌです。
 コルネイユもカナダ人ですが、ルワンダ人でもあります(1977年生)。
 ザジは、その名前からもちろんレイモン・クノーの小説『地下鉄のザジ』から取られた芸名です。本名は、Isabelle Marie Anne de Truchis de Varennes de Laye と言います(1964年生)。そうです。貴族の出なのですね。十六歳で大学入学試験を取る程の秀才で、学問も音楽も優れているのはもちろん、そのスタイルの良さからスーパーモデルとしても活躍します。作詞作曲家としてはデビューが遅く92年のアルバムからです。いずれ紹介できると思います。
 なお、『誰に権利が?』はパトリック・ブリュエルの個人アルバムの『Rien ne s'efface』と『Si ce soir 2』に収録されています。

『誰に権利が?』

よくこう言われたものさ。「質問ばっかりして。
いいかい坊や(注)、人生経験すればわかることだよ。
なんでもかでも知ろうとしてなんになる。
前を見なよ、見えるものだけ見ればいいんだ」

よくこう言われたものさ。「父親の言うことを聞きなさい」
パパはなんにも言わなかった、家を出て行った時に。
ママはこう言った。「大きくなったらわかりますよ」
そして、僕は大きくなって一人前になった。

誰にそんな権利が、誰にそんな権利が?
子供にそんなことをする権利が誰にあるんだろう?
大人の言うことを本気で信じる
子供にそんなことをするなんて。

人は「ありがとう」を言って人生を過ごすもの。
[ありがとうだって!誰に?何に対して?]
そしてなんでもかでも思いのままなんだ、
嘘まみれにされた子供たちに対して。

人はみんな同じだと、言われたものさ。
神様はひとりではない、けどお日さまはひとつだけだと。
そう、でもお日さまは輝いている、燃えている。
君は喉が渇いて死にそう、あぶくをパクパクしている。

君も、そうだと思うよ。聞かされてきたんだ。
立派なお話を。まったくよく言うよ・・・与太話ばっかり!
そうして今、人生の途上で再会するのさ、僕たちは
恐怖と苦悩と疑惑を抱え込んだまま。

誰にそんな権利が、誰にそんな権利が?
子供たちにそんなことをする権利が誰にあるんだろう?
大人の言うことを本気で信じる
子供たちにそんなことをするなんて。

人は「ありがとう」を言って人生を過ごすもの。
[ありがとうだって!誰に?何に対して?]
そしてなんでもかでも思いのままなんだ、
嘘まみれにされた子供たちに対して。

(注)コンサートではザジは「パトリック」と歌っている。

追記: 以前の記事ですが、曲が聴けるようになったので今にリニューアルしています。
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ポップ・フランセ | 21:57:08 | Trackback(0) | Comments(8)
コメント
初めてコメントさせていただきます。yunaというものです。更新いつも楽しみにしています。
 Qui a le droit?はこのコンサートのCDの中でも特に好きな歌ですが、こんな歌詞だったんですね。しかもパトリック・ブリュエルの伴奏とモニエ君の独唱にこんな意味があったなんて・・・。ライブの映像を少し見たとき、確かにモニエ君をみんながすごく温かい目で見守っていたのを感じていたのですごく感動しました。本当に素晴らしい歌ですね。
2006-06-05 月 23:52:57 | URL | yuna [編集]
yuna さん、「スキピオの夢」にようこそ。コメントを下さいまして、ありがとうございます。
本当に、Qui a le droit はすばらしい曲ですね。訳すのが難しくて、遅れてしまいました。でもまだ、自信がありません。実は yuna さんがお読みになったのに少し手を入れました。また紹介文の方も少々変えました。ご容赦下さい。
再度読んで下されば幸いです。
では、失礼します。
2006-06-06 火 22:31:08 | URL | Scipion 明生 [編集]
 こんな意味だったのですね…!コンサートの唄を聴いている限りではしっとりとしていて気持ちが落ち着く感じで、瞳を閉じてじっくりと聴き入っていたい曲だったのですが、その歌詞に込められた意味は純粋な子どもが抱く大人の矛盾に対する反抗みたいですね。
 それにしても、確かに演出がステキですね!!「子ども」のモニエくんを優しく見つめる大人たち、それにピアノを弾きながらパトリックはどんな想いだったのか…。思い浮かべるだけでほんのり心があたたかくなります。
 …人は矛盾なしでは生きられないと思うけれど、せめて誠実に生きたいです…。
2006-06-07 水 03:11:52 | URL | Blue-rose [編集]
Blue-rose さん、コメントをありがとうございます。活力をいただいている、そんな気がしてやる気が湧いてきます。
おっしゃる通り、本当に誠実に生きたいですね。
では失礼します。
2006-06-10 土 15:02:23 | URL | Scipion 明生 [編集]
こんにちは
かなり前の記事へのコメントでごめんなさい。
気づいてもらえるでしょうか・・・;
youtubeでたまたまこの動画に行き着いてすごく感動しました。
気になって気になって調べていたところスキピオさんのブログにたどり着きました。
Qui a le droitの歌の意味やパトリックさんの思い、モニエ君を見つめる表情など・・・なんだか心を打たれてしまいました。
このコンサートはCDになっているのですか?
またLes Enfoiresというショーと関係があるものなのでしょうか?
最後のほう質問だらけになってしまいすみません。。。
気になっているのですが調べてもフランス語だらけで・・・;;
このコメントに気づいていただけたら幸いです。
2009-11-24 火 12:08:50 | URL | mami [編集]
Re: CDもDVDもあります!
『スキピオの夢』に遊びにきてくださり、ありがとうございます。
このコンサートは、1月の終わりから2月初めの間に、一年に一度行われるチャリティー・コンサートです(始めてもう20年になります)。毎年テーマが決まっておりまして、mamiさんがご覧のコンサートは2005年のです。この年は、「Le train des Enfoirés(愚か者達の列車)」というタイトルになっています。
僕自身は、それのCDもDVDも持っています。
今、フランス・アマゾンで調べたら、DVD(2枚組)が9.99ユーロ、CD(2枚組)が12.70ユーロとなっていました。ですから、1ユーロを140円として、DVDは1400円くらいとなります。しかし、それに送料が約1000円ほどかかるかもしれません。
ついでに、日本のアマゾンを見たところ、DVDはなくて、CDが3780円くらいでありました。
もし、モニエのファンでしたら、翌年の「Le Village des Enfoirés(愚か者達の村)」もすばらしいです。あのボーイソプラノこそありませんが、一年後のモニエが美しい歌声を聴かせてくれます。
では、失礼します。
なにかございましたら、どうぞご遠慮なく、ご質問ください。
2009-11-24 火 18:04:45 | URL | 石田明生 [編集]
詳しく教えてくださりありがとうございます!本当に嬉しいです。
Les Enfoiresの動画を他にもいろいろと見てみました。素敵なイベントですね。いつか生で見てみたいな~なんて思ってしまいました。
フランスアマゾンでDVDを買おうと思ったのですが、いまいち仕組みが(というよりフランス語が・・・)わからなかったので、値段は高かったのですがM in Franceというところに注文しました。
モニエ君の歌声すばらしいですね。コーラスの時から気になっていたのですが、この動画を見てファンになってしまいました。
2009-11-28 土 11:57:11 | URL | mami [編集]
Re: 『コーラス』の先生も
Mamiさん、こんばんは。
DVDをご注文なさったとのこと、内容豊富です。楽しんでください。
ちなみに、映画『コーラス』の先生役だったGérard Jugnot(シ゜ェラール・ジュニョ)も出演しております(彼はほとんど毎年出ています)。また、今年と去年の「ソワレ・デ・ザンフォワレ(愚か者達のコンサート)」には、体育教師役だったカドも出ています。
ではまた・・・
2009-11-29 日 00:16:52 | URL | 石田明生 [編集]
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