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石田明生

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ヴェズレーまでの道
九月八日(月)

 マルタン家の朝食はパンと、近所に住むマドレーヌさんの(黄金の)左手が作り出すバター、マリー=クロード(マルタン夫人)お手製のジャム、ダニエル(マルタン氏)が入れてくれるカフェ・オ・レだ(シリアルとヨーグルトもあった)。屋内の食堂でいただいた。
 昼食は外の見えるガラス張りのテラスでいただく。樹木の枝をリスがちょろちょろ走り回っている。しっぽの長い、なかなか姿の良いリスだ。耳をすませば陽気な鳥の声、日本ならさしずめ軽井沢の別荘といった風情だろうか(軽井沢体験ありません)。

テラスの食堂
昼食はガラス張りの食堂でいただく。日本からはるばる来た風鈴がぶら下がっている。



 別棟にあるキッチンから、ダニエルが料理を運んでくる。それは、オーブンでしっかり焼いた、肉詰めのトマトだった。添えもの野菜として米が載っていた。香ばしいトマトと肉汁のしみ出る肉、僕はすすめられるままに二つも食べてしまった。というのも、その肉汁に浸して食べるパンが絶妙なのだ。翌日ダニエルと一緒に買い物に行って知ったが、車で五分ほどの距離にあるパン屋さん、街道の端にぽつんと一軒だけ建っているそのパン屋さんは、昔風に薪だけでパンを焼いているそうだ。もちろんマルタン家とは知り合いだ。こんな田舎に、軽井沢のような別荘地でもない、こんなド田舎(失礼!)に、店の外観はおそらく軽井沢のパン屋並みかそれ以上にしゃれていて、店内には食欲をそそるいろいろな種類のパンやケーキが並べられているのだから、驚いてしまう。

肉詰めトマト

 さて、食事の方だが、トマトの肉詰めの次はシェーヴルのチーズ、これがまたバゲットと絶妙だ。しかし、それ以上に食事を美味しく演出しているのは、ダニエルと二人で母屋のカーヴ(地下倉)で選んだボルドーの赤だ。実を言うと、食後、ヴェズレーにドライブするので、アルコールのことを内々心配していた。食事開始のときは、マリー=クロードが運転するということで、彼女はなめるように飲んでいたが、食事がチーズに移ったあたりから,飲み方が大胆になった。僕はだんだん心配になり,
 「午後の運転は?」と恐る恐るたずねると,「シェーヴルはどうしてもボルドーの赤と食べたいの。運転はダニエルがするわ」
 と、澄まし顔。
 少し赤ら顔のダニエルは、「僕は軽く二杯しか飲んでいない。合わせて,ちょうど一杯だ。つまり、違反ではない」こうのたまわる。つまり、フランスでは,車の運転時に葡萄酒は一杯まで許されるというわけだ。そういえば、二年前のブルターニュ旅行の際も、車を運転してくれたネヴェン青年も一杯まではいいんだ,と言って飲んでいた。
 というわけで、ダニエルがハンドルを握って、ドライブに出発した。車は普通の乗用車を使用した。マルタン家には車が三台あり,その時々で使い分けているらしい。一台は,前日乗ったランドクルーザーのようながっしりした車(仕事用らしい),もう一台は,マリー=クロード用のスポーツカーだ。

 マルタン家のあるシュヴァンヌ村からヴェズレーまで、約四十キロの距離だ。ダニエルはすぐ近くだと言っていたが,日本的に考えてみるとそうとうの距離だ。ところがこちらでは、「すぐ近く」ということになるらしい。確かに,その感覚は車に乗ってみて実感できた。というのも、高速道路ではないが,田舎の車道は真直ぐで信号機はなく,人はもちろん,すれ違う車もほとんどない。だから、百キロ近くの早さで、高速道路並みに、車は疾駆する。信号機と言えば,田舎ではまず見かけないものだ。だが、信号機のない単なる十字路では、衝突事故はどうしても起きてしまう。それでは,対面二車線の県道どうしの交差点はどうしているか。
 十字路の中心をロータリー式にして、車が常に流れるようにしているのだ。もちろんスピードはゆるめなくてはならないが,これなら信号機無しで交差点を通過できる。この種の巨大なものが,パリの凱旋門のあるエトワール広場だ。十二本の道が集まっているにも関わらず,あの大交差点には信号機がない。
 また、日本と違って,鉄道の踏切も車はノンストップで走り抜ける。フランスには概して踏切というものが少ないのだが(首都圏、都市圏では見かけたことがない)、さすがに,平地の田舎には存在している。この度も,一度通り越したが,ダニエルは何の躊躇もなく、スピードをあげたまま,走り抜けた(それともこの線は貨物線だったのか)。もしかしたら,踏切で絶対一時停止というのは、日本独特なのかもしれない(フランス的な合理主義からすると、電車が来ないとわかっているのに,一時停止するのは不合理に思えるかもしれない。そのための遮断機だから)。

牧場

通り過ぎる村

 マルタンさんは、きれいな景色の見える道順を選んだのだろうか。車窓を、小さな村や緑豊かな牧場,どこまでも続くと思われるような森が猛烈なスピードで通り抜けて行く。丘の彼方には真っ青な空が,日本で言えば、秋空のように高い空がかぎりなく広がる。
 二・三十分も走ったろうか。道は街道から右に折れてくねくねと狭くなる。そのうちに駐車場とおぼしきところに停車する。
 「着きました。ヴォーバンの城です」
 まず,ヴェズレーの手前十キロのところにある、この地方でもっとも有名な城、バゾッシュ城に立ち寄ったのだ。
 リンゴの木が植えてある駐車場からは、建物の全容が見えない。それもそのはずだ。この城は有料になっている。入り口で,四人分の二十八ユーロを支払い,さっそく中に入る。
 武人の城らしい、勇壮な全容が明らかになる,と同時にはるか彼方、丘の上にヴェズレーの町が見える。われわれはブルゴーニュの豊かな大地を一望しているのだ。

Vauban

城からヴェズレー
城から遥かヴェズレーの町を望む(拡大して下さい)。

 この城の建設は十二世紀に遡る。聖地ヴェズレーに近いこの城は、十字軍の時代に、フィリップ尊厳王(二世)とリチャード獅子心王(一世)を客に迎えたことがあるそうだ。彼らはここに滞在し,ヴェズレーで戦勝祈願をして、エルサレムに向かったのだろう。
 しかし,このバゾッシュ城が、真の領主を迎え,現在の姿になるのは、十七世紀のルイ大王(ルイ十四世)の時代だった。マーストリヒト攻城戦において、その天才的な戦法により、大勝利をおさめて勇名をはせたヴォーバン元帥(1633-1707)は、その戦功により国王からこの城を褒美としてもらった。以来,現在の所有者まで彼の子孫がこの城を受け継いでいる。
 バゾッシュの村は、城の下に位置する小さな村だ。その教会に、元帥の遺体が眠っているのだが,心臓だけは、バリのアンヴァリッドに移送された。というのは、軍事的天才になによりも敬意を抱く,ナポレオンが命じたからだ。ちなみに、テュレンヌ(1611-75)の心臓も同様だ。ルイ大王時代の軍事的側面を支えた二人は、ナポレオンの尊崇の対象でもあったのだ。

バゾッシュ教会

教会内部
バゾッシュ村の教会と内陣。この中にヴォーバン元帥の墓がある。

 車は、ヴェズレーに向かって走る。このバゾッシュ村から少し行くと,ニエーヴル県を出て,隣のヨンヌ県に入る。

キュール川
途中のキュール川、息をのむような美しさだった。


そして、まさにヴェズレーの丘に登ろうとする寸前に、車は小さな村に徐行しながら入っていった。
 「あそこに止めましょう」
 事情がわからない妻と僕は,言われたままに車から降りる。すると・・・
 ゴチック様式の美しい教会が目の前にそびえていた。何の変哲もない村に、ゴチック様式の伽藍。この村は「サン・ペール村」だと教えてくれた。シュヴァンヌの村にも教会があるが、古い教会はたいてい,バゾッシュ村のもそうだが,素朴なロマネスク様式が普通だ。だから、このサン・ペール村の教会に、何とも言えない違和感を覚えた。ゴチック様式の建物がこんなにも豪華に見えるとは思わなかった。勝手な感想だが,人通りのほとんどない村の通りに、前庭もなく立つゴチック様式の偉容がそぐわないのだ。いつの間にか,ゴチック様式の教会は都会にあるものと,思い込んでいた。もっともそんなことは観光客の偏見だ。村人たちにとってこの教会は、村の魂だろうし、日常でもあり、おそらく誇りでもあるだろう。

サンペール教会
サン=ペール村のゴチック教会

サンペール教会入り口

教会の豪華な入り口
サンペール村
サン=ペール村

 嬉しいのは,この村がまったく観光地化していないことだ。教会の隣に、工房が二つばかりあり、作品を売っていたのだが,職人はわれわれの方を見ることもなく,淡々と仕事をしているだけだった。

職人
僕らの存在を無視して、ひたすら仕事をしている職人さん

 しかし,観光地化していないことが、本当はもっとも観光地としてすぐれた観光地化かもしれない。土産物屋が建ち並び,売り子の声が飛び交い,駐車料金表の看板が林立する。そんな人情の村に人は再び訪れようとは思わない。フランスの町や村は、たとえ観光地であっても、そんな興ざめの光景を提供しない。このあと訪れる、世界遺産のヴェズレーでさえも、いわゆる観光地化から免れている。結局は、そのことが再訪願望をかき立てるのだ。もう一度、行きたい・・・と。
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2008年夏の旅行記 | 23:22:07 | Trackback(0) | Comments(0)
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