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石田明生

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Vox angeli(天使の歌声)の美しいボーイソプラノ
 フランスでもっとも有名なシンガー・ソングライターといったら、必ずや五本の指に入るのはジャン=ジャック・ゴールドマンだろう。セリーヌ・ディオンもジョニー・アリディーも彼の曲を数多くレパートリーとして、スター街道を歩んで来た。二人だけではない。何十人もの歌手達が後に続く。80年代以降のフレンチポップスは彼無しでは考えられないだろう。そんな彼の曲をなにか一曲紹介するとしたら、どうしたらいいだろう。あまりの量と質の高さに圧倒されてしまう
 そこで今回は、美しいボーイソプラノの声に誘われて、“Comme toi” 「君のように」を取り上げてみよう。
 
 まずは、Mathis 少年の美しい声を聞いてください。

http://www.youtube.com/watch?v=dUjOKyCooRg

マティス少年は、少年少女各3人からなるコーラスグループ VOX ANGELI(天使の歌声)のメンバーのひとりです。このグループは Berger(ミッシェル・ベルジェ) の “Paradis blanc” Bruel(パトリック・ブリュエル) の “Qui a le droit” などいろいろ歌っています。まさに天使の歌声です。ちなみに、「君のように」は映画「コーラス」で有名になった J-B Maunier(ジャン=バチスト・モニエ)によっても歌われています。上の URL からすぐに見つかります。ご覧ください。


 メロディーの美しさもボーイソプラノの美しさも申し分のない心地よさだ。しかし、この歌の本質は歌詞の奥深さにある。拙いながら訳してみた。

「君のように」

明るい目をした女の子は、ビロードのワンピースを着て、
お母さんの隣、家族のみんなに囲まれて
柔らかな光の中、ぼんやりとポーズをとる。
黄昏れ時に

写真のうつりはよくないけど、よくわかる
幸せいっぱい、夕べの団らん
女の子は音楽が好きだった、特にシューマンと
モーツァルトが

君のように
君のように
僕がそっと見守る君のように
夢を見ながら眠る君のように、何の夢?
君のように

女の子は下手の村の学校に通って
ご本の勉強をし、おきまりを覚えてた
女の子は蛙さんの歌を、森で眠るお姫様の歌を
歌ってた

女の子はお人形が好きだった、お友達も好きだった
特にリュットとアンナと、ジェレミーが
きっといつかワルシャワで、みんな一緒に結婚する筈だった

君のように
君のように
僕がそっと見守る君のように
夢を見ながら眠る君のように、何の夢?
君のように

女の子の名前はサラ、八歳にもなっていなかった
女の子の人生は、優しさ、夢、真っ白な雲
でも、知らない人達が別の人生にしてしまった

女の子は、君のような明るい目をして、君と同い年だった
おだやかな、とてもお利口な女の子だった
でも、君のように生まれてこなかった
今ここにいる君のように

君のように
君のように
僕がそっと見守る君のように
夢を見ながら眠る君のように、何の夢?
君のように

 1975年に結婚したゴールドマンは、すぐに三人の子に恵まれている。その中の長女Catherine は、この曲が発表された1983年には何歳だったろうか。
 そうだ、この「君」とはきっと長女のカトリーヌに違いない。パパは、古い、戦争中の写真を手に娘に語りかけているのだ(ボーイソプラノの声でお聞かせしたが、この歌は本来はおとなが歌うべきなのだ)。写真の女の子は、ぼくが3年前にパリの Hôtel de ville の展示会で見た、ユダヤの子供達のひとりだろうか。屈託なく、不安などみじんも抱えている様子もなく、歌詞の内容のように、確かな明日を信じている、ニコニコ顔の女の子だろうか。

ユダヤの子供達
2007年にパリ市庁舎で開催された展示会「フランスで強制連行されたユダヤの子供たち展」の写真より
これについての僕のブログは次のURLです。http://scipion.blog60.fc2.com/blog-entry-75.html

 巧みなシンガーソングライターは、サラという女の子に残酷な表現をひと筆も与えない。サラに与えられるのは、ひたすら彼女の日常、彼女のままごとの世界だ。だからこそ、「でも、知らない人達が別の人生にしてしまった」というフレーズは、唐突感とともに聞くものに衝撃を与える。この詩句がいきなり彼女の運命をむき出しにし、悲劇を決定づけてしまうのだ。
 その日サラはいつものように学校から戻ったに違いない。仲良しの友達、リュットやアンナやジェレミーと「また明日ね」と言って、村の泉のところで別れたかもしれない。家に着くと、パパやママンが深刻な顔してサラを迎える。「サラ,支度しなくちゃいけないんだよ。パパもおじさんも,みんな遠くで働かなくちゃならなくなったからね・・・」
 見ると,パパとママンの後ろに怖い顔をした人達がいる。みんな知らない人達だ。無言でじっとサラの家族のしていることを見ている。
 「いいよ,お前のお気に入りの人形を持って行っても。でもみんなは駄目だよ,一番のをひとつだけにしなさい」
 家族みんなは,近くに止まっていたトラックに乗せられる。ふと見ると,さっき別れたばかりのリュットやアンナやジェレミーまでもいる。「みんな一緒なんだね。みんなのパパやおじさんも遠くに働きに行くんだね」
 こうして,彼らはパリ郊外のドランシーという町にある収容所に集められる。そこでアウシュヴィッツ行きの列車を待つのだ(これについての僕のブログは http://scipion.blog60.fc2.com/blog-entry-85.html です。ドランシーの町と強制収容所を訪ねております)。

 だが、彼女の運命を暗転させたのは、ひとりナチスの残虐さばかりではない、これに協力したフランスのおとな達の残酷さ、反発はしても傍観したおとな達の無関心と怯懦、おとな達の無知、おとな達そのものなのだ。サラは子供の日常を体現する子供、特別なユダヤの女の子でもなんでもない、おとなの横暴の犠牲となった子供そのものなのだ。
 ゴールドマンがユダヤの家庭の出身だったということにどれほどの意味があるだろうか。彼の父親は戦争中レジスタンスの活動をし、彼の兄はいわゆる過激派として世界を股にかけ、あげく殺害されるに至ったと聞く。むしろ、そういう父や兄の正義感からの影響が強かったのではないだろうか。だが、彼の正義感は『君みたいに』ににじみ出ているような静かな、地味な、ともすれば見過ごされるような心、「正義感」なんておこがましいような、はにかんだ思いやりみたいな心だ。それは美しい。

Goldman
ジャン=ジャック・ゴールドマン(Wikiからの転載)

 目の前の貧しい奴だけでもなんとかしようよと、ユーモリストのコリュッシュと始めた「愚か者達のコンサート」はもう今年で20年になる。世の中は一向によくなる気配もない。ゴールドマンは、最近再婚し、また3人の子に恵まれたらしい。仄聞にすぎないが、年のいったパパはすっかり家庭人間となり、音楽活動も休止状態らしい。が、2010年の「愚か者のコンサート」は、2月1日、ニースにて開催される。このコンサートだけは別、もちろん、ゴールドマンが中心だ。

 『君のように』の歌詞は以下の通りです。


Comme toi

               Jean-Jacques Goldman

Elle avait les yeux clairs et la robe en velours
A côté de sa mère et la famille autour
Elle pose un peu distraite au doux soleil
de la fin du jour

La photo n'est pas bonne mais l'on peut y voir
Le bonheur en personne et la douceur d'un soir
Elle aimait la musique, surtout Schumann
et puis Mozart

Comme toi..
Comme toi.. (×6)
Comme toi que je regarde tout bas
Comme toi qui dors en rêvant à quoi
Comme toi.. (×4)

Elle allait à l'école au village d'en bas
Elle apprenait les livres, elle apprenait les lois
Elle chantait les grenouilles
Et les Princesse qui dorment au bois

Elle aimait sa poupée, elle aimait ses amis
Surtout Ruth et Anna et surtout Jérémie
Et ils se marieraient un jour peut-être à Varsovie

Comme toi..
Comme toi..
Comme toi que je regarde tout bas
Comme toi qui dors en rêvant à quoi
Comme toi..

Elle s'appelait Sarah elle n'avait pas huit ans
Sa vie, c'était douceur, rêves et nuages blancs
Mais d'autres gens en avaient décidé autrement

Elle avait tes yeux clairs et elle avait ton âge
C'était une petite fille sans histoire et très sage
Mais elle n'est pas née comme toi,
ici et maintenant

Comme toi..
Comme toi..
Comme toi que je regarde tout bas
Comme toi qui dors en rêvant à quoi
Comme toi..

Comme toi
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ポップ・フランセ | 10:21:16 | Trackback(0) | Comments(0)
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