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『日本とフランス』・・・読み甲斐のある本
『日本とフランス 二つの民主主義・・・不平等か、不自由か』久しぶりのイチ押しの本


 1989年だから、もう今から17年も前になってしまうのか。当時はバブル経済真っ盛りの時だった。大学は定員を越える入学者であふれかえり、郊外にキャンパスを求め、入学試験は試験会場が大学だけでは間に合わず、予備校を借りる始末だった。
 もちろん、社会は札束が散乱していた。フランスのシャトーの売り出しが出て、実際買い取る日本人まで現れた。
 そんな時に「消費税」が争点となった参議院選挙が行なわれた。不思議な選挙だった。デパートなどの大資本も社会党も共産党も売上税=消費税の反対を叫んでいた。結果は知る通り、社会党の大勝となった。しかし、この勝利は皮肉にも社会党の滅亡(ほぼ)につながった。

日本とフランス.JPG
『日本とフランス 二つの民主主義・・・不平等か、不自由か』(光文社新書)薬師院仁志著



 当時にあって、政治・経済の苦手な筆者もさすがに「消費税反対キャンペーン」を進める左翼の主張がへんてこでならなかった。だってそうだろう、福祉国家を目指すなら、税金を多くとらなければだめだろう。そのためには直接税より、消費税のほうが公平なのではないか。お金持ちはたくさんお金を使う。だから結果的に税金をたくさんおさめる。筆者のような貧しいものはあまり使わない。だから税金が少なくなる。もしその消費税がフランスのような富裕税(付加価値税 TVA)となればもっといい。贅沢品に高い税を課し、必需品に無税もしくは低率の税にしてくれるならば。
 ところが、消費税を主張するのは自民党で、反対するのは社会党を中心とする左派。これでは反対ではないのか。

 そんな疑問にわかりやすく説明してくれる本がこの夏に出た。『日本とフランス二つの民主主義・・・不平等か、不自由か』という本がそれだ。しかし、実は消費税問題はこの本の末節に過ぎない。過ぎないが、筆者の長年の問いに社会学者として明解に答えてくれたのがうれしい。と同時に、高福祉社会と高消費税率はほぼ一体化してしまうのでは、と思っていた筆者の「あてずっぽう」があたっていたのもうれしい。

 この本の眼目はズバリ言うと、国民というものは「自由」を選択するか「平等」を選択するか、それが民主主義だ、ということだ。抽象的な言い方をすれば「右翼」か「左翼」どちらを選択するかだ。先の消費税の例は、日本ではその二つの選択肢が明解でないので、選挙民が選択すらできないままに、選挙する(あるいは棄権する)ことになる実例としてあげられている。
 その選択肢の例として、著者の薬師院氏はフランスの例をあげている。フランスは二大政党制ではないが、大きく二つに別れる。つまり、現在のシラク大統領の国民運動連合(フランス民主連合が共闘)と社会党(共産党が共闘)だ。この二つの主張のバランスの上に成り立っているのがフランスの政治・行政であり、社会だ。国民運動連合が選挙に勝てばリベラル度を上げ(たとえば民営化)、社会党が勝てば平等度を上げる(たとえば国有化)。
 グローバルな視点に立てば、アメリカがリベラルであり、フランスおよびEUが平等派だ。現在日本はご存知の通り、特に小泉政権になってアメリカのリベラル路線を歩み始めている。しかも、国民にはフランス型の不自由・平等政策が提示されないままだ。
 この二つのベクトルは「大きな政府」と「小さな政府」と置き換えてもいい。「大きな政府」は高福祉型を目指し、「小さな政府」はリベラル型、つまり、自由競争型社会を目指す。例を挙げてより具体的にいえば、「小さな政府=自由重視政策=アメリカ」は大学の授業料もかく大学の裁量にまかせているのでご存知のように名門大学ほど高額だ。対して「大きな政府=平等重視政策=フランス」は大学に限らず授業料は無料で、誰でも学問の志があるものは入れる。もちろん生活費の補助に奨学金もある(奨学金とは返済不要のものを指す、と薬師院氏のご指摘、ごもっとも。筆者ははらわたを煮えくりかえしながら返済した。嫌な思い出)。
 要するに現在の日本がそうであるように「勝ち組・負け組」社会、自己責任社会が、右翼=自由=小さな政府の目指すところであり、減税を選挙公約の目玉とする。対して左翼=平等=大きな政府は、高福祉を選挙公約の目玉とするが、増税(とりわけ法人や富裕層からの)や消費税を説かなければならない。
 グローバル化がなぜ問題になるかといえば、フランス型平等社会を押し進めると、会社や富裕層がフランスから低税率のアメリカに移ってしまうからだ。富裕層の存在しない国家は抜け殻のようになってしまう(あるいはポル・ポト的共産主義に陥る・・・ここまで薬師院氏は書いていない)。
それでもアメリカは共和党と民主党のあいだで「右翼=自由=大きな政府」と「左翼=平等=小さな政府」という綱引きは行なわれている、らしい。もっとも、薬師院氏に言わせると、アメリカの民主党はフランスの右派の「国民運動連合」よりも平等度は低いらしいが。簡単に示すと次のようになるらしい。
(左)フランス社会党-フランス国民運動連合-アメリカ民主党-アメリカ共和党(右)
 いわゆる先進国はこの両端のあいだに大体二大政党があり、それが綱引きをしているというのが氏の主張だ。翻って、日本はどうだろう?

 この本には色々なデータが載っているので説得力もある。たとえば世界の貧困率(国全体の平均所得の半分以下の所得の者が人口中に占める割合)のベスト(ワースト?)5が出ている。
 メキシコ20.3%、アメリカ17.1%、トルコ15.9%、アイルランド15.4%、日本15.3%となっている。
 枕詞のように「世界第二位の経済大国」と言って、国民を安心させている人が今日もテレビに出ていた。
 また高等教育における家計負担率は(2002年)、だんとつで高いのは韓国(63.80%)と日本(58.50%)で次にアメリカ(38.90%)が続いている。ちなみにフランスは10.10%だ。もちろんこの話は出生率の問題とからんでくる。著者は、フランスがどれほどのケアーで、つまりどれほどの「大きな政府」振りを発揮して出生率を先進国中トップクラスの1.9人台にしているか、綿密な資料を掲載している(子供ができた時の政府の支援のすごさがわかる。公共機関の割引きなど)。

 この本は日本とアメリカの憲法前文と、フランスの憲法前文の比較から始めて、「自由」と「平等」という民主主義の二大価値観について話の端緒としている。つまりアメリカ(日本もほぼ同じ・・・当り前か)の前文は「自由のもたらす恵沢を確保する目的をもって、アメリカ合衆国のために、この憲法を制定する」のように「自由」を前面に打ち出している。
 対して、フランスのは「フランスは、非宗教的、民主的、社会的な、分割し得ない共和国である。フランスは生まれ、人種、宗教の区別なしに、すべての市民に対して法の下での平等を確保する」を読めば明らかのように「平等」をまず最初に強調する。
 要するにここにすべてが込められている、と氏は主張しているのだ。
 また、フランスはなによりも最初に「非宗教的」という文言が出てくる。これも実はアメリカと大いに違う。たとえば「聖書に誓う」というのはアメリカ的だが、フランスでは考えられない。このあたりについても、薬師院氏はアメリカ独立宣言を引用し(「創造主から権利を賦与され」と書かれている)、細かく言及しておられる。

 と、まあこんな具合に、「自由」と「平等」という民主主義の基本がフランスを引き合いに出して論じられる。それはちょっとスリリングなほどわかりやすい。さらに言えば、民主主義の本質が見えてくると言っても過言ではないと思う。
 また、氏は昨年のフランスにおける「不法移民の暴動」騒ぎの時、フランスにおられて、まさに目の当たりに「経験」したそうだ。その報告も興味深い。
 新書という厚みのない本だが、この書に関しては内容は濃いし盛り沢山だ。今、筆者の最もお薦めの一冊となっている。

 【最後に一言】
 この本を読んでいて、アルベール・カミュの小説『ペスト』の一場面を思い出した。
 主人公は語り手でもある医師リュ-、ドストエフスキ-の『悪霊』に登場するキリーロフ並みに人はいかにして聖者になれるかという課題を背負いつつ、リューと友情で結ばれるタルー、ふたりは身を粉にして蔓延したペストに敢然と立ち向かう。そこにもうひとりの人物、取材でたまたまこのオランの町に立ち寄り、ペストに巻き込まれ、町から出られなくなった新聞記者のランベールがいる。彼は新妻と会いたいがため、裏工作をしてやっと脱出のメドが立つ。その途端に、彼はリューに脱出を放棄したと言う。それを聞きリューは、
 「幸せになるのは恥ずべきことではありません」
 「ええ、そうなんです。でも自分ひとりが幸せになるのは恥ずべきことかも知れません」
 ランベールはそう言って、ペストと戦う道を選ぶ。
 [注:思い出すままに書いたので、少し違っているかも知れません。悪しからず]
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書評 | 22:03:01 | Trackback(1) | Comments(6)
コメント
とりとめない感想ですが...
「自由」と「平等」の話、簡潔な要約で非常にわかりやすく、興味深く読ませていただきました。
よしあしはともかく日本はこのまま格差社会をつきすすむような気がします。
格差社会と、庶民とりわけ若い人たちのモチベーションの低下は、つながっているような気もします。
社会学も経済学も全くの門外漢ですが...。

カミュの「ペスト」は読んだことがありませんが、Scipion先生がいつもお話されているフランスのボランティア意識に通じるものがあるように思いました。
こちらもただの印象に過ぎませんが。

2006-11-28 火 08:06:45 | URL | koharu [編集]
お礼
 koharu さん、ようこそ。コメントありがとう。本当に、これから日本はどこへ行くのか? なんとなく考えてしまいますね。
 ところで、カドフェルはいかがでしたか?またいろいろと語り合いましょう。
 とりあえず、お礼まで。
2006-11-28 火 21:42:35 | URL | scipion [編集]
「氷の中の処女」
フランス語のpucelleにあたるスペイン語は
doncellaでした。(男性形はdoncel。でもあまり用いられないようです。)
doncellaというと侍女というイメージの語感を持っていますが、
ジャンヌダルクは
Doncella de Orleans
というそうです。勉強になりました。
2006-11-29 水 21:18:04 | URL | koharu [編集]
koharu さん、スペイン語を調べてくれてありがとう。doncella には侍女というニュアンスがあるとおっしゃっていましたが、英語のmaid もそうですね。フランス語の pucelle にはその意味はありません。
ですから、少し違うようですね。それはそれでおもしろいですが。
では、失礼します。
2006-12-01 金 23:02:16 | URL | scipion [編集]
追伸
原題は
The virgin in the ice
のようです。
文庫版の情報をネットで見つけました。

ヴィデオも見ました。犯人は途中で読めちゃいますね。
でも、充分面白かったです。
2006-12-04 月 21:14:27 | URL | koharu [編集]
ありがとう。そうですか、virgin ですか。maiden は古いのか、それともニュアンスが違うのでしょうか。はたまた「修道女」だからでしょうか。
今晩「修道士の頭巾」を見るのを楽しみにしています。
では失礼します。A demain!
2006-12-05 火 18:23:05 | URL | scipion [編集]
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  この記事の題名はできるだけ短く「フランスの税制論議は今、担税力ある者に応分の負担を求める方向に。」としました。それでも長いです... 2010-04-17 Sat 23:13:27 | 村野瀬玲奈の秘書課広報室

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