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石田明生

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新宿サザンシアターにて、喜劇『ファッションショー』を見る。
 金曜日(1/28)の夜、新宿の紀伊国屋サザンシアターに劇を見に行った。出し物は木場久美子作、渾大坊一枝演出の『ファッションショー』。この劇、喜劇と銘打っているだけあって、観客席は時にくすくす笑いのさざ波に、時に爆笑の大波に包まれた。かくいう僕も例外でいられるわけもなく、ひとりクスリとしたり、げらげら笑ったり、久々愉快な二時間強を過ごした。

ファッション 表紙
パンフレット「民藝の仲間368」の表紙



 劇のテーマは「老い」「老後」という、作者木場さんの自家薬籠中のテーマで、その暗く沈みがちなテーマを、これまた木場さん得意の諧謔と皮肉をふんだんに盛り込んだ名台詞の連発で、マジックのように滑稽化してしまった。僕を含めて観客たちは、笑いながら、老いに対する抵抗力と免疫力をもらったに違いない。
 人は誰でも老いて、死んでいく。それはいくら抗っても、否定しようのない命題ではないか。それならば、その最後を迎えるまで、人としての尊厳を保ち(このテーマは二年前に木場さんが劇にした。以前ここで取り上げた、劇『選択 一ヶ瀬典子の場合』http://scipion.blog60.fc2.com/blog-entry-116.html#more)、自己を失わず、憂いもなく過ごせれば、それにこしたことはない。が、それがなかなか難しい。

 主役の大空てるは、結婚もせず、18歳のときから40年間働き続けた。贅沢は敵だと、まさに爪に火をともすような生活をして、マンションのローンをついに払い終えたばかりか、2千万円の大金をも貯め込んだのだ。75歳となった身寄りのない彼女がこれからの人生でたよりとするのは、お金だけだ。ところが、昨今、貯金を銀行に預けても利息はほとんどない。それどころか、銀行の倒産まで起こる。不安に駆られた彼女、それならばと箪笥預金に切り替えた。おかげで今では夜な夜な金を数えるのを楽しみにしている。
 てるの長年の友人吉本伸枝は、かつては会社の社長を捕まえて結婚し、羽振りの良い生活を送っていたが、連れ合いに死なれ、おまけにひとり息子は能無しの金食い虫ときてる。今では、貧乏のどん底暮らしで、息子のためとはいえ、てるに借金を申し込むほどの落ちぶれよう。
 大空てるは、吝嗇も極まって、マンションの二部屋ももったいないと思い、同い年の自称女優明日待子に、使わないひと部屋を貸していたが、この女優、からっけつのために、ちっとも家賃を払わない。それどころか、てるのカードで洋服を買ってくる始末。締まり屋のてるはいよいよこの間借り人を追い出そうとする。とその時・・・
 デパートの外商部課長と名乗る男が、マンションを訪ねて、二人に熟年向けのファッションショーのモデルにならないかと持ちかける。奇麗なドレスを着られるだけでなく、望外な出演料まで出るという話に二人はすっかり有頂天。この話に完全に乗ってしまう。
 「これだけ生きてきたんだから見る目がある」と、自信たっぷりの大空てるも、口達者なプロの詐欺師の巧みな口上にすっかりほだされて、箪笥預金のことも、あまつさえ金額までも口にする。というわけで、40年間食うや食わずでためた虎の子の2千万、そっくり盗られてしまった。
 パンフレットの中で作者の木場さんが書いておられるように、てるにとって《「お金」は持っているだけで安心であり、「お金」は、自立する精神すら与えてくれる》(p.5)ものだ。
 その存在証明のようなお金を失って主人公は、狂気に陥るか廃人となってしまうのだろうか。彼女はあらゆる手を使って、半狂乱のようになって、命のような貯金を取り返そうとする。が、どうしても取り戻せないとわかった時、彼女は今までとはまったく正反対の感覚を抱いて自身驚く。箪笥預金をしている時、家にお金があるというだけで、安心どころかいつも不安だったこと、自由気ままに外出すらままならなかったこと。盗られるものがなくなった今、むしろ解放感さえも感じること。
 この三人の「後期高齢者」の女性たちは、「金(かね)、金、金の社会にしたのはいつからか」話し合っているうちに、ひとつの結論に達して、異口同音に叫ぶ。《小泉からだ!!!》
 もちろんここで、観客席は大爆笑。
 詐欺師にあおられただけで夢幻となったファッションショー、そのファッションショーを、三人は本当にやろうとデパートにかけあう。もちろんギャラなしのファッションショーだから、今度のは欲得抜きだ。こうして、後期高齢者に区分けされた女性たちが、後期高齢者の女性たち(誰が老いを二段階に、しかも年齢で分けたのだ?・・・これもK以来?)のために、ファッションショーを繰り広げる。ショーの観客は劇の観客と重なり合って、場内は、ドレスを着た三人のモデルへの賛美の拍手と芝居を演ずる三人に対する称賛の拍手が渾然一体となり、エンディングを迎える。
 芝居がはねて、席を立つ老齢の方々が、席に着いた時よりもお元気な様子に見えたのは気のせい、というだけでもなさそうだ。

箕浦
左から、塩屋洋子、箕浦康子、仙北谷和子(パンフレットより)

 三人の俳優さん(箕浦康子、仙北谷和子、塩屋洋子)の演技、なかんずく主役の箕浦さんの演技がすばらしい。劇にありがちなオーバーアクションとならず、それでいてしっかりメリハリの利いた演技と台詞回しで、喜劇とは思えないリアリティーがあった。僕が見たのは初日だから、日を重ねるに従ってさらに良くなるに違いない。パンフレットの彼女へのインタビュー記事を読んでいたら、彼女は、俳優座付属の養成所の13期で、佐藤オリエ、佐藤友美、故石立鉄男、故細川俊之と同期だったとのこと。さぞかしおもしろい青春時代を過ごしたことだろう。

 最後に、こんな機会を与えてくださった作者の木場さんに感謝感激しています。次もなにかおもしろいものを舞台にあげてくださることを願いつつ・・・
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劇評 | 11:30:06 | Trackback(0) | Comments(0)
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