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石田明生

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吟遊詩人を思う・・・ジョルジュ・ブラッサンス公園
 パリの15区に緑地面積なら市街最大という「ジョルジュ・ブラッサンス公園」がある。名前はもちろん以前「不世出のシャンソン歌手」として紹介したことのあるブラッサンス(1921~81)に由来する。彼はこの近くに住んでいた。

時計台.JPG
【ブラッサンス公園でくつろぐ人たち】

ロバ.JPG
【人気者ロバ君(ブロンズ製)】

Brassens 像.JPG
【公園内にあるブラッサンス像】

 そして、この近くを徘徊し、この近くのカフェでパイプを加えて一杯やりながら、得意のゴ-ロワズリ-(冗談)で仲間を笑わせていたことだろう。
 そうでなければ、近くの図書館に行って、読書に没頭していたことだろう。


 そういえば14区に「ジョルジュ・ブラッサンス図書館」が数年前にリニューアル・オープンした。もしかすると彼が入り浸っていた図書館とはこの図書館の前身かも知れない。たぶん、それを記念して名が付けられたのだろう。
 なにしろこの詩人は文字どおり本の虫だったのだから・・・

古本市.jpg


古本市2.jpg
【ブラッサンス公園の古本市】
旅行ブログ仲間のパルファンさんが今年11月に撮影した写真を転載しています。
「ありがとう、パルファンさん」

 そのためだろうか。ブラッサンス公園に古本市が立つようになった。ブラッサンス公園に足を運ぶなら土曜・日曜にするがいい。屋根付きの広い空間にそれはそれは垂涎の古書がずらりと並ぶから。

 前回『哀れなマルタン』を紹介したので、今度は何を、と考えて、何百とある作品の中から、まずこの曲を紹介しよう。彼の国民的な代表作のひとつで、僕の大好きな詩で、僕がヘタなりに唯一フランス語で歌える曲だ。昔ブラッサンスを気取ってギター片手に何度練習したことか。

Brassens 顔.JPG
【CDブラッサンス全集3のジャケットより】


♪~♪オ-ヴェルニュの人に捧げる歌♪~♪

これはあなたの歌です。
あなた、オ-ヴェルニュの人よ。さりげなく
わたしに薪をなん本かめぐんでくれた、
わたしが寒くて寒くてしょうのない時に。
わたしに暖をくれたあなた、
男たちも女たちも
善意の人と言われるどんな人も
わたしにぴしゃりと門前払いをしたその時に・・・
それはただの焚き火にすぎませんでした。
けど、わたしの身体をあっためてくれました。
今だって、心の中であかあかと燃えています、
祝祭のかがり火のように。

あなた、オ-ヴェルニュの人よ、あなたが死んで
葬儀屋さんがあなたを運ぶ時、
どうか天を突き抜けて連れていきますように、
永遠の父のもとに。

これはあなたの歌です。
あなた、女主人(おかみ)よ。さりげなく
わたしにパンのかけらをめぐんでくれた、
お腹がすいてすいてしょうのない時に。
わたしにパン入れを開けてくれたあなた、
男たちも女たちも
善意の人と言われるどんな人も
すきっ腹を抱えたわたしを見てふざけていたその時に・・・
それはほんのわずかなパン切れにすぎませんでした。
けど、わたしの身体をあっためてくれました。
今だって、心の中であかあかと燃えています、
大宴会のように。

あなた、女主人(おかみ)よ、あなたが死んで
葬儀屋さんがあなたを運ぶ時、
どうか天を突き抜けて連れていきますように、
永遠の父のもとに。

これはあなたの歌です。
あなた、見知らぬ人よ。さりげなく
哀れんだ様子でわたしに微笑みかけてくれた、
警官たちがわたしを取り押さえた瞬間に。
わたしをからかったりしなかったあなた、
男たちも女たちも
善意の人と言われるどんな人も
わたしが引っ張られるを見て大笑いしていたその時に・・・
それはほんのひと口の甘味にすぎませんでした。
けど、わたしの身体をあっためてくれました。
今だって、心の中であかあかと燃えています、
お天道様のように。

あなた、見知らぬ人よ、あなたが死んで
葬儀屋さんがあなたを運ぶ時、
どうか天を突き抜けて連れていきますように、
永遠の父のもとに

つぎのURLをクリックすると、オーヴェルニュの美しい風景を見ながら、歌を聴くことができます。
http://www.youtube.com/watch?v=xnBKAJdduho

冬の公園.jpg
【冬のブラッサンス公園】
パルファンさん提供


 ブラッサンスといえば、歌人で評論家の今は亡き塚本邦雄(1920~2005)を抜きにしては語れない。この碩学はシャンソンに対しても深い造詣と愛情を有し、とりわけブラッサンスへの嗜好は余人を受け付けず。
 あろうことかこの歌人は、シャンソン好きが嵩じてついに『薔薇色のゴリラ』(人文書院)なる「シャンソン読本」をものしてしまった(1975年)。それは驚くべき一冊となった。シャンソン評論家の永瀧達治氏は次のような言葉で賛辞を送る。

《・・・この一冊で、音楽評論の卑俗さを思い知らされたのだ。・・・(略)・・・ボリス・ヴィアンやゲンスブ-ルと同じく、塚本邦雄は、あらゆる時代の若者たちを刺激する存在だ》(『薔薇色のゴリラ』増補改訂版[1995年]の帯より)

 確かに、この本はすごい。ブラッサンスのみならずピアフ、グレコ、モンタン、フェレ、はてはあのトゥールーズ・ロートレックが絵筆をとったアリスティッド・ブリュアンとイヴェット・ギルベールまで、まさに百花繚乱だ。
 書名の「薔薇色のゴリラ」とは、ジョルジュ・ブラッサンスのこと。彼の容貌もゴリラに似てもいるが、ここは抱腹絶倒のシャンソン『ゴリラ』に由来すると思ってよい。この『ゴリラ』、一度聞いたら忘れられない衝撃が走る(「ゴリラに御用心」のリフレイン)作品だ。ここで詩を紹介できないのが残念だ。なぜかだって?・・・長いし、塚本邦雄の表現を借りれば《陰事(ばれ)の素破抜きの極限》が歌われているからだ。男趣味のゴリラに犯された判事が、その朝死刑にした男の泣き声をあげるというオチぐらいで、我慢してもらおう。
 
塚本.jpg
【塚本邦雄著『薔薇色のゴリラ』】


 塚本はブラッサンスの最高傑作として『マリーヌ』を挙げる。

ラ・マリーヌ(船乗り)

人は、とある日の小さな愛に
縮図を見る
永遠に続く愛の
歓喜と不安のすべての・・・
それは船乗りたちと
愛すべき人たちの運命(さだめ)なのだ
人は素早く口を寄せ
身を寄せ会う

歓喜と不満
いさかい、仲直り
大きな愛のこれらの縮図が
或る日の小さな愛にある
人は笑いくちづける
胸の上で、
髪におおわれた
生れたての卵のような乳房の上で・・・

人が、とある一日の中で、なすことの総ては
たとえ時間をのばして
それを三倍にしてもどうせ
満足、不満、また満足、どれかになるのだ
部屋には甘美な愛と
瀝青(チャン)の匂いが漂う
それが心に歓喜と
苦悩を齎し、そして充たされる

人はそこで語りはしない
しかし愛のさ中にも思う
明日も夜は明けるだろう
そしてこれは災禍なのだと
これは船乗りたちと
愛すべき人たちの運命(さだめ)なのだ
人は身を寄せ合うが
それが楽園にはなるまい

人は先を急ぎ
なんと時間をも追い抜き
時間に総ての罪を詰めこむ
といって、それで楽園にはなるまい
けれど永遠に続く愛の
歓喜と不安の総ての
縮図を、とある日の小さな愛の中に
人はふたたび見るだろう
[北嶋廣敏訳]

 感受性豊かな歌人はこの歌について《私はこの歌を聴く度に差含(さしぐ)む。聴き終わって不覚の涙を恥じながら、涙ぐむまでにすぐれた歌に邂逅し得た幸福を思い、ブラッサンスに感謝する》と心情を吐露している(注:引用文は全て現代仮名に直しました)。
 そう、すぐれた歌との邂逅、これこそ人生の醍醐味かも知れない。

 公園では光の下、ブラッサンス像のまわりでささやかかも知れない喜び・・・ブラッサンスが最も大切にしたもの・・・を見い出す家族連れたちでにぎわう。

像のまわり.JPG

【ブラッサンス像のまわり】


ロバと子供.JPG
【人気者のロバと遊ぶ子供たち】


 官権やブルジョワなどあらゆる権威を唾棄し、富裕や豪奢を嫌悪して、葬式、死、草花、雑草、結婚、娼婦、蝶々、流浪者などなどひたすら身の丈の生活を詩にして歌ったジョルジュ・ブラッサンスも、さすがに晩年はあまりに有名になってしまった。だから彼の死はポンピドゥ-大統領からの「現代最高の詩人」というオマージュに代表されるように国葬並みになってしまった。もちろんそんなことを最も忌み嫌ったのはご本人のブラッサンスであろう。
 死後も、この公園の名前もさることながら、彼の詩は今や学校の教科書に載ったり、バカロレア(大学入学資格試験)の出題文とされるまでに、体制内化されてしまった。まさにご本人にしてみれば、不本意の極みというところだろうか。
 もっとも彼のことだから、パイプをふかしながら、
 Je m'en fous! (そんなのくそくらえ!)
と、にやりとしているかも知れない。

 さて、公園をもうひとつの出口(西側)から出て、ほんの5分も歩くと狭い通り沿いにあの有名な「蜂の巣」がある。シャガール、スーチン、モディリアーニなどなど、ここで青春時代を送った画家は数知れず。今でも画家たちのアトリエとして現役の活躍をしている。そのため立ち入ることはできない。

蜂の巣.JPG
【蜂の巣】


 万博用の建物を移転した、と言われているその外観は風変わりで美しい。ブラッサンス公園に行ったら、ぜひ「蜂の巣」も見ていくがいい。

注:驚いたことに、以上の拙文を書き終えて、ブラッサンス関係を検索し、見ていたところ次のようなHPを発見した。「ジョルジュ・ブラッサンス全集」 解説:ルネ・ファレ 共訳:奥地 睦二・佐藤 哲生・小川 和洋・・・まだ読んでいないが、ブラッサンスを全訳した意欲的なお仕事だ。僕の30年来の夢、ブラッサンスの全訳がこのような形でなされていたとは・・・
 先の文章で一箇所訂正しておこう。塚本についてのところで「とりわけブラッサンスへの嗜好は余人を受け付けず」と書いたが、奥地氏をはじめお三方は、塚本に勝るとも劣らぬブラッサンスへの傾倒ぶり、敬意の気持ちとともに、件の一文を取り消します。
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パリ散歩 | 04:38:55 | Trackback(0) | Comments(2)
コメント
ジョルジュ・ブラッサンスの『ゴリラ』という曲はインパクトがありましたね。
ギター一本の姿は、昔の日本の「流れ」を連想させてくれましたw
2006-12-14 木 17:06:07 | URL | titanx2 [編集]
titanx2 さん、こんばんは。「流れ」って、ひょっとしたら「流し」のことかな?君たちの授業もついにあと一回になってしまいましたね。寂しい気もしますが、C'est la vie! 来週またよろしく。
2006-12-14 木 23:45:55 | URL | scipion [編集]
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