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石田明生

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『ベラミ』の舞台 2
 ベラミことジョルジュ・デュロワは、単に社長夫人のお気に入りになるのではない。驚きかつ忌まわしいことに、貞淑な賢夫人として評判の夫人を、誘惑してその操を奪い、最後には彼女の娘と結婚することで捨ててしまうのだ。ベラミの残忍性が顕著になるのがこの時だ。社長夫人を誘惑するのは、もちろん彼女を愛しているからではない、彼女が貞淑の誉れが高いからだ。彼女には18歳と16歳になる娘が二人いるが、それまで浮いた噂ひとつなかったのだ。この時、ベラミは『危険な関係』のヴァルモン子爵になる。
 彼女と初めて二人だけで会う場所がサン・ラザール駅から東に500メートルほどにある「トリニテ教会」だ。

トリニテ教会      教会内陣

このトリニテ教会は第二帝政時代に立てられた(1867年完成)。ヴァルテル夫人を待っていたデュロワは、内陣を見学している見知らぬ人にこの教会がいつ建てられたか尋ねられ「二十年か二十五年前だと思います」と答えている。小説の時代は1887年頃だから、彼の答えは正しいことになる。この内陣で祈りを捧げる夫人は貞と不貞の葛藤の中にいた。




 さすがのデュロワも教会の中では強引に事を運ぶことをせず、次の逢い引きを勝ち取るだけにする。その逢い引きの場所こそ、彼が最初の原稿を書けず、ひどく心細い思いで、友人の助けを待っていたモンソー公園なのだ。こうしてモンソー公園は『ベラミ』という小説の中で、主人公の野望の到達度を示す指標になる。
 最初に来た時は、ものにできない原稿を片手に、彼は公園で逢い引きをする男女を見て次のように思う。

«・・・しゃれた身なりの若い男が、彼の前を行ったり来たりしていた。きっと女を待っているのだろう。
 やがて、女がヴェールをかぶって足早にあらわれた。ちょっと握手してから、男の腕をとって行ってしまった。
 恋を得たいという激しい欲念が、デュロワの心をかきみだした。それは身分が高く、かおりのよい、上品な恋であった。・・・»(p.189)

 上流階級のヴァルテル夫人とのモンソー公園での逢い引きは、まさに、デュロワの野心の成就を意味していたのだ。やってきた夫人は、午後の公園に人の多いのに驚き、すぐにデュロワの手配した馬車に乗る。そうして彼が愛人用に借りていたへやに連れ込まれ、操をけがされてしまう。

ハドリアヌス帝
«ヴァルテル夫人は泉の流れている、昔のかっこうを小さくうつした廃墟の中にいた»(p.324)
夫人は、この写真のハドリアヌス帝の別荘を模した廃墟のあたりにいたのだろうか。


 四十歳になって初めて恋を知り、男を知った夫人は、まるで生娘のように恋に酔って、手練手管もなく、ただひたすら直線的に男を愛する。が、男のほうは、そんな痴情にすぐうんざりしてしまう。この辺は、以前若い頃読んだ時はそうでもなかったが、こうして年齢を重ねてみると読むのがつらい。デュロワのつれなさとヴァルテル夫人の男への一途さがあまりにも赤裸々に描かれているからだ。
 『赤と黒』中のジュリアンとレナール夫人との恋がなんと美しく、神々しいことか。そして、同じ野心家でも、ジュリアンとデュロワとの間にどれほどの違いがあるか。それは、ロマンチスムの時代と世紀末レアリスムの違いに置き換えることができるだろうか。貴族社会とヒロイスム(ナポレオン崇拝)の時代と、金融資本が勝利したいわゆるブルジョワ社会到来の時代との違いだろうか。
 結局、夫人は最悪の形で男に捨てられる。デュロワは彼女の娘シュザンヌを誘惑し、結婚するからだ。
 その結婚式は、やはり8区の「マドレーヌ教会」で行われる。このことは、すでにここのブログに書いたことがあるので重複はしないことにする(以下をクリックしてください)。

http://scipion.blog60.fc2.com/blog-entry-27.html

マドレーヌ
ベラミことデュロワが社長令嬢と式を挙げたマドレーヌ教会、壮大なネオ・クラシック様式の建造物だ。
この入り口で振り返ると次の写真となる。


ブルボン
コンコルド広場のオベリスクの向こうに、やはりネオ・クラシック様式のブルボン宮殿が見える。
この宮殿こそ、国民議会の議場であり、デュロワの野心の到達点だ。
ちなみに、右奥に見える黄金のドームは「アンヴァリッド」で、ドームの下にナポレオンの棺がある。





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2012年フランス旅行 | 11:37:46 | Trackback(0) | Comments(0)
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