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石田明生

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コルマール旅情(2)
 第二面のマリアのテーマは心なごむものであったが,問題はその裏面だ。そこにグリューネヴァルトがもっとも力を注いだと思われる傑作がある。思えばこの祭壇画は、聖アントワーヌ会修道院付属の施療院の礼拝堂に飾られていたものだ。主役は常に聖アントワーヌでなければならない。
 聖アントワーヌは、4世紀エジプトの聖者であった。彼はあらゆる所有物を投げ捨て,エジプトの南、テバイードの砂漠であらゆる誘惑と戦い,修行したと伝えられる。この「聖アントワーヌの誘惑」は画家にとっても(ヒエロニスム・ボス、ピーター・ブリューゲル)小説家にとっても(ギュスターヴ・フロベール)、魅力的なテーマであったのだろう。
 人間のありとあらゆる欲望を退け、ひたすら祈りと修行を全うし、聖アントワーヌは紀元356年に105歳で没した。この105歳という年齢のすごさも加わり、彼は聖者の中でも人気のある聖者となった。グリューネヴァルトは、その魅力的なテーマに敢然と挑んだのだ。

聖アントワーヌの誘惑



 齢百を越えているのだろう、聖アントワーヌは擬人化されたあらゆる欲望に責め立てられる。

聖アントワーヌの誘惑 3             聖アントワーヌの誘惑 2
異様な細部は、シュールレアリスム的な世界だ。

 先日、アナトール・フランスの小説『タイス』を読了した。フランソワ・ヴィヨンが傑作『去年の雪今いずこ』のなかで、名残惜しむ美女の中に加えた遊び女タイスを、そのふしだらな生活から清純、純粋なキリスト教徒の生活に導こうとした聖者のごとし砂漠の隠者パフニュスを主人公にした物語だ。時は聖アントワーヌの没する356年頃(実際、死の直前のアントワーヌも出てくる)、カイロの南テバイドの砂漠で、パフニュスはどんな隠者たちよりも自己に厳しく修行をし、他の修道士たちの尊敬を勝ち得ていた。まさに、聖アントワーヌに比すべきほどであったのだ。そんな彼は、遊び女タイスの名声とその奔放極まる生活の噂を聞き,彼女に説教をし、正しき道を示し、真のキリスト教徒の生活をさせようと、彼女に会いにいく。事実、聖なる隠者は、その名声を後ろ盾に、彼女に会うことができ,彼女を正道に導き、ある修道院に入れることに成功する。遊び女タイスは以後、祈りの生活に入る。
 では、タイスを導いた師パフニュスはどうだったか。彼はまたもとの砂漠に戻り、修行の生活を再開する。が、どうしても以前とは、同質の生活を送ることができない。夢枕に、妄想から生まれたさまざまな動物たちが押し寄せ、彼の安息を脅かすのだ。なぜ以前と変わってしまったのか。なぜ悪魔の使いたちが次々とおのれを襲って来るのか。パフニュスにはどうしてもわからない。どうしようもなくなったパフニュスは、砂漠をいでて、さらに厳しい環境に自己をおこうと考える。そこで、ある廃墟に残っている円柱の頂上で、寝起きをし、そこに坐って修行し続ける。と、その評判は国中に広がり、その円柱のまわりは大変なにぎわいの場となってしまう。結局彼は、さらなる修行を求めて放浪する。しかし、頭にこびりついた妄想、訳の分からぬ妄想はついてまわる。
 そんなとき、迷妄の隠者は、聖アントワーヌが105歳で死の準備に入り、最後の演説をするという噂を耳にし、すがるように聖者のもとに行く。そこには、たくさんの群衆が救われんがためか、ひしめいていた。そんな喧噪の中で,彼は、タイスが死にかけているという噂を耳にする。そのとき、彼はすべてを了解する。タイスと別れて以来、タイスへの邪念がずっと奥深く、彼の内部にこびりついていたのだ。彼は、生きているタイスに会おうと、彼女の修道院にひた走る。
 事実、彼女は瀕死の状態だった。師に抱かれたタイスは、パフニュスを認め、清らかな生活を送れたことを師に感謝する。そして、まさに天使に導かれていくかのように、穏やかな死をむかえるのだった。が、パフニュスは彼女に、神をも否定して、現世の欲望を表明する。「生きてくれ、そして愛し合おう」
 美しきむくろを抱く隠者は、いつしか吸血鬼のごとき面相になっていた。

 隠者パフニュスは悪魔の誘惑に屈したのだった。このグリューネヴァルトの聖アントワーヌも、悪魔の攻撃にたじたじとなっているのではないだろうか。なす術もなく、ただひたすら、受け身の姿勢で耐えているだけではないだろうか。だが、聖アントワーヌは隠者パフニュスと違う。彼はついにあらゆる誘惑を退けるのだ。
 もしも、聖アントワーヌがタイスと出会っていたならどうだったのか。タイスの魅力、魔力は、彼女が改悛するだけになおさらいや増して、隠者を襲ったのではないだろうか。清らかな身となった遊び女は、淫蕩な女の身よりも淫乱に見えたのだろうか。
 この聖アントワーヌの誘惑には、タイスは登場していないのだろう。
 さて、聖アントワーヌの誘惑の先には、聖アントワーヌの彫像があった。もちろんこれは、グリューネヴァルトのものではない。たぶん,これが全体の主役なのだろう。

聖アントワーヌ

 中央の聖アントワーヌを、左に聖アウグスチウス、右に聖ヒエロニスムの立像がある。また、下壇にはイエスと十二使徒(もちろん,ユダのかわりにパウロがいる)が三人ずつ枠に収まっている。彼らはまじめな顔をしているが、どこかほほえましい。

 美術館を出て、コルマールの旧市街を歩く。

コルマール旧市街

 中世の美術を堪能したあとは、美しい街並がひとしお心をなごませる。この通りをまっすぐ行くと、旧税関の建物にぶつかる。この旧税関こそ、この町のハッピーゾーンなのだ。ここで、アルザスワインをとても安価で楽しめる。アペリティフには最高。

旧税関           旧税関・バール3

旧税関・バール      旧税関・バール2

 リースリングやピノ・ノワールなどのアルザスワイン(白)がグラス一杯150~200円くらいで飲める。まさに天国だ。このあとは、夕食にシュークルットとフォワグラを食すれば、コルマール満喫と言える。

シュークルットとフォワグラ
シュークルットとフォワグラ

 というわけで、美術館近くのレストランで、待望のアルザス料理を味わう。
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2013年フランス旅行 | 18:06:27 | Trackback(0) | Comments(0)
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