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石田明生

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映画『そして父になる』
 今回の仏旅行で、長い飛行機旅の間に4本の映画を見た。行きに2本、帰りに2本。みなそれぞれについて語りたい気があるが、とりあえず、話題となった、カンヌ映画祭参加作品、是枝監督の『そして父になる』(2013年)について思ったことを語ってみたい。
 まず気になったのは、題名のことだ。邦題『そして父になる』は当然日本映画なのだから、この題名が監督自ら決めた正式題名に違いない。が、英語題名 «Like Father, Like Son» を見て、「あっ」と思った。ということは、フランス語題名は «Tel père, tel fils» だろう。この «Tel père, tel fils» は、仏和辞典によるまでもなく「この父にしてこの子あり」という有名な諺だ。手元の仏和辞典には、Tel maître, tel valet 「主人も主人だが、従者も従者だ(従者は主人に似る)」と、別の例文まである。そういえば、昔、あるフランス人に出来の悪い学生を紹介したとき、Tel professeur, tel étudiant と言って、冗談が受けたことがある。
 つまり、原題『そして父になる』は フランス語・英語題名とかなり距離があると、まずは言わねばならない。


 さて、この映画のストーリーには、決定的なキーワードが二つ存在する。ひとつは、上映間もない小学の面接試験のおりに、主人公「野々宮」の息子・慶多が答える「夏休みキャンプの楽しかったこと」で、お父さんが凧揚げ(だったかどうか心もとないが)が上手だったと、父親もびっくりするほどの嘘を息子がつく、この「凧揚げ」もしくは「キャンプ」という言葉。この嘘のキャンプや野生生活的夏休みを、主人公の野々宮が企画したり、実践したりすることは絶対に不可能だということが、取り違えの相手である電気屋の登場によって、確認される。つまり、この取り違え映画は、最初の面接試験で、その布石は打たれていたのだ。実際、息子を交換したり、家族交流したりする中で、野々宮は電気屋の斎木に、「凧揚げ」をするよう薦められる。
 もう一つのキーワードは、野々宮の妻が夫に吐き捨てるように言った「やっぱり」だ。野々宮は、息子が交換されていたことを知って、思わず「やっぱり」と言ってしまったのだ。それを妻のみどりは聞き逃さなかった。「そのこと絶対に忘れないからね」と夫に激怒して通告する。努力家で賢かった、優等生の父親から見ると、息子の慶多は、「こいつ本当に俺の子か」と思わせるほどに歯がゆい存在だったのだ。そこから二つ目のキーワード「やっぱり」が重みを断然増すことになる。
 映画は、この二つのキーワードをエリートの父親が背負いながら進み、電気屋に育てられた本当の子との生活に失敗して、最後の最後に、育ての子「慶多」を受け入れて(あるいは受け入れようとして)、終わる。
 映画や小説に解決を求めるつもりはないが、「凧揚げ」や野生生活と縁のないこの父親、どこか心の片隅で「やっぱり俺と似ていない」という思いを抱き続けるであろうこの父親は、果たして、これから先長い家庭生活を全うできるのだろうか。小学の高学年、中学、高校と成長するにつれ息子が必ず直面するさまざまな問題に、「やっぱり」という致命的な単語を忘れることのできない妻と、「やっぱり」と思っている父親はどう対処いくのだろうか。「やっぱり」とは、子供の交換だけを意味しているのではないからだ。もしも、取り違え事件がなければ、妻の不貞をも疑いうる、恐ろしい意味を含んでいるのだ。
 この映画の結末に、安易さを感じたのは、僕だけではないはずだ。
 最後に、子供をとりあえず本当の親に戻して、生活するが、そのときの小学校はどうなっているか、さっぱり描かれていなかった。必要がなかったかもしれないが、やはり作りが安普請になっている印象はまぬがれない。

 というわけで、辛口の感想でした。えっ、結末がどうなれば良かったかですって ?
 厳しいですが、野々宮夫妻は別居か離婚、育ての息子慶多も電気屋の子となる。これは、子供の交換を知った野々宮が、最初に思い、提案した解決策(注)と逆になる皮肉だ。
注) 取り違えのことを知った野々宮は、傲慢にも、両方の子を金銭ずくで引き取ろうとした。
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映画評 | 03:44:29 | Trackback(0) | Comments(0)
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