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石田明生

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甥の死
 今年は、国際的にも国内的にも悲しい事件が多発し、嫌な年だと以前書いたが、今度は身内の死に見舞われた。甥の死。記憶に閉じ込めたいので、以下簡単に三日間の日記にした。

2月4日(水) 晴
 朝7時頃、朝食を始めようとテーブルに着くと、突然電話のベルが鳴る。朝の電話は恐ろしい。マンションの宣伝も、保険の勧誘もこんな時間にくることはないからだ。吉報など、もちろんある筈もない。第1コールで同じ思いの妻と顔を見合わせ、第2コールで妻が受話器を取る。前々日、肺がんの手術を明日に控えた高校の同級生に電話をしたばかりだったので、つい弱気になってしまった。
 「M君が危篤なんですって、お義兄さんから」
 ずきんと胸がなり、受話器を受け取る。M君とは、3年前から闘病生活をしている甥のことだ。この正月の元日、退院をして自宅療養しているM君を見たばかりだったので、元気になったのだろうと楽観していた。そうだ、M君のこともあったのだ。電話口の声はその父親、つまり兄の悲痛な声だった。
 受話器を置いて、川越の病院に駆けつけた。



2月5日(木) 雪、みぞれ、雨
 昨日はM君が小康状態に入り、落ち着いたので病院を早々に立ち去った。今日は、天候が天候なので図書館にも行けず、というよりも、M君の状態もあるので、携帯電話のない身ゆえ、家で待機するかたちをとった。
 電話が怖い。一度ベルが鳴ってどきりとしたが、家のリフォーム会社からだった。ひどくぶっきらぼうに電話を切った。かけている相手は、こちらの心境を知るべくもない、驚いたに違いない。
 何の連絡もなし。
 冷たい一日が過ぎていく。

2月6日(金) 快晴
 朝食を済ませて、茶を飲んでいると電話のベルが鳴った。思わず妻と目を合わせる。この電話、僕の身内のことだ、妻に任せるわけに行かない。思い切って第1コールで受話器をつかむ。長兄からであった。「(甥の)M君が今朝8時10分頃息を引き取った」という連絡だった。
 M君は、3年前、30歳のときに骨髄の癌におかされて闘病生活に入った。骨髄移植をしたが再発し、次に臍帯血移植をした。とにかく可能な限りの治療を受けて、病と闘った。兄も強気の性格だったので、絶対に病気なんかに負けるものかと息子を鼓舞し、家族をあげて闘った。無菌室で孤独に過ごす長い時間、困難な手術、激しい拒絶反応、その時その時精神的苦悩や極度の苦痛を乗り越えて、ひと月、ふた月、半年、一年、二年、三年と生きた。雄々しい闘いだった。
 M君は子供の時からずっとサッカーをしてきた。大学を卒業し、市の職員になったあともずっとサッカーを続けていた。サッカーを愛し、サッカーに愛され、仲間たちを愛し、仲間たちに愛される、明るい好青年だった。病気に罹ったという話も聞いたことがない。心身ともに健康な青年だった。どうして不治の病に冒されてしまったのか。
 そんなことを考えながら、電車の中でこのメモを書いている。午前10時頃の電車は通勤ラッシュも終わり、間が抜けたように、まばらな乗客が腰をかけて静かにモバイル機器を操作している。寂しい車内だ・・・

 兄の家にはまだ、M君は帰っていなかった。彼のお兄さんたちが弟の帰宅の準備をしている。ぼんやりとお茶の間に腰をかけて待っていると、寄せ書きでいっぱいの真新しいサッカーボールが置いてあるのに気付いた。見ると、真ん中に大きく2015年の文字、そのまわりに4月の職場復帰とサッカー再開の願いが様々な文章で亀の甲らのような五角形のひとつひとつに黒いフェルトペンで書かれていた。ということはこの寄せ書きは今年のものだ。3年も職場を留守にしていても、仲間たちはなお近しく、親しくエールを送り続けていたのか。

サッカーボール           みんなのエール

 M君のお兄さんがスマートフォンを持ってきた。プロサッカーチーム「大宮アルディージャ」のゴールキーパー加藤選手からのエールを聞かせてくれた。写真付きのそのエールは、キャンプ地のグァム島から送られたものだが、今朝、7時に着いたらしい。つまり、息を引き取る1時間前ということになる。加藤選手のきびきびとした声は、もうろう状態のM君に届いただろうか。きっと届いたに違いない。「M君、明日埼玉に帰ります。また、練習場で会いましょう」そんな内容だった。
 昼頃、M君は両親とともに悲しい帰宅をした。
 合掌。
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日常スケッチ | 11:31:15 | Trackback(0) | Comments(0)
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