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石田明生

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8月22日 アングレーム
 予定通り、アングレームの駅に着く。駅は丘の下に位置していて、旧市街に行くには丘への上り坂を辿らなければならない。インターネットでダウンロードした頼りない地図を片手に10分ほど歩くと、漫画『タンタン』の作者で有名なHergeの像に遭遇する。胸像だが実物の4倍はある巨大な像だ。それもそのはず、アングレームは漫画の町としても知られている。街のところどころの壁には漫画の主人公たちだろうか、漫画が描かれている。

Hergé
漫画『タンタン』の作者エルジェHergé像

漫画壁絵1        漫画壁絵2
町のあちこちに描かれた漫画絵




 結局、市庁舎前あたりで道に迷ってしまう。ふたりであたりをきょろきょろ見回していると、それなりの身なりのおじさんが「迷子ですか」と話しかけてきた。あまり迷子のつもりではなかったので、お愛想で目の前の立派な建物を指さして「あれは何ですか」と訊いてみた。「市庁舎です」と思った通りの返事。「ありがとうございます」と言って、先を行こうとすると、そのおじさんが戻ってきて、何やら話しかけてきた。よく聴くと「2ユーロ欲しいんです」と言っているではないか。「ありませんので」と答えると、にこにこして立ち去った。
 アングレーム最初の会話の相手が物乞いのおじさんだったとは・・・
 結局この地点から通りの先に見える屋根付きの市場に行く。これがなかなかきれいな市場で、ひやかして歩いていると、チーズ屋さんの棚に緑色のきれいなチーズが目に留まる。wasabiという字。おもしろいので一切れ買う。ちなみに、このチーズ、フランス産ではなく、オランダから来たものだ。

ワサビチーズ
チーズ屋さんのウィンドウ、緑色のがワサビチーズ

 市場から旧市街を目指して行くと、狭い、まさに中世の通りのような街に迷い込む。次の行き先は、ロマネスク様式のカテドラルだ。この小腸のような迷路で、完全に道に迷ってしまったので、ついに通りすがりの家族連れに道を訊く。幼い子を連れた若い夫婦は親切に道を教えてくれたばかりではなく、奥さんは、近くに住んでいるからと言い、地図を持ってきてくれた。ありがたいことにその地図をくださった。もう道に迷うことはない。目的地のサン・ピエール大聖堂にもいとも簡単に辿りつき、圧巻のロマネスク彫刻を堪能し、写真におさめることができた。

St Pierre 大聖堂        At Martin 浮き彫り
サン・ピエール Saint Pierre 大聖堂の正面 façade とその中の浮き彫り拡大:サン・マルタン Saint Martin が自分のマントを切り分けている。

 大聖堂見学が済むと、主張しだすのがおなかだ。今回の昼食は何にしようかと、旧市街のレストラン街を物色して歩いていると、いきなりフォPhoの看板を掲げた店が目に入り、白い麺が急激に食べたくなる。
 店に入り、テーブルに腰掛けて、ヴェトナム人のおじさんにうれしそうにフォを注文すると、「まだない」というつれない返事。憤慨して店を出ようとも思ったが、それでは大人げない。胸の内でPhoにさらばを言いつつ、平然と焼きそばを注文する。これがまたうまい。焼きそばに舌鼓を打っていると、そのおじさん、我々になに人か訊いて来た。「日本人」と答えると、突然親しげになり、近くに日本人がひとりいると教えてくれる。
 するとその舌の根も乾かぬうちに、件の日本人が店に食事をしに入って来た。「アベケンジ」さんと自己紹介する。フランスに来てもうすでに40年になると言う。ずっとパリにいたが、数年前アングレームに越して来て、クレープの店を一人でやっているが、土曜の昼食は出していないので、ここに食べに来た。「土曜の昼はお客さん来ないんですよ。だから食べに来たんです。近所付き合いは大事ですから」と笑っている。「歩いて1分くらいの、そこのところでやっています」久々日本語をしゃべるのだろうか、なかなかの饒舌ぶりだ。もう年金暮らしなので、店は道楽のようなものだと笑っている。「だから、儲けを考えずにいいものだけを出せるんです」

ケンジさんの店        アベケンジさん
「漫画祭りのときには日本人もたくさん来ます」と、アベさん。店の名前はサンタフェという。

 アングレームの町は、バルザックの小説『幻滅』の序章を飾る。この町の第一のサロンを開いているのが、文学的教養たっぷりのパルジュトン夫人だ。彼女はこの田舎町で才能を秘めたと見られる詩人の卵、美青年のリュシアンに肩入れをする。若いリュシアンは、夫人を女神とたたえ、いずれ共にパリに出て大詩人になる夢を育てる。薬屋の息子のリュシアンだったが、その名(リュシアン・シャルドン)を恥じるパルジュトン夫人の入れ知恵で、母方の姓であるリュシアン・ド・リュバンプレと名乗る。
 そして、ついに二人は駆け落ちをするかのように、パリに出る。
 田舎町アングレームは、パリを前にした時、どれほどみじめなものであったか。パリのサロンに登場した、アングレームの女王パルジュトン夫人がどれほど目立たない地味な存在になってしまうか。滑稽にも貴族姓を名乗る無名の詩人がどれほど無様な田舎者に見えるか。結局、リュシアンは頼りのパルジュトン夫人に捨てられ、貧乏な学生の群れに落ち込み・・・
 パリのことはさておき、バルザックはアングレームをどう描写しているか。
«アングレームは、シャラント川流域の草原にそびえたつ円錐状の砂糖塊のような岩山の頂上にきずかれた古い町である»(生島僚一訳 東京創元社 p.32)

シャラント川
町の城壁からシャラント川を見下ろす。

 確かに、バルザックの言うように、アングレームの町は岩山の頂上に作られた。だから、写真のようにシャラント川流域を遥か遠くまで望むことができる。シャラント川は、バルザックによれば、水の恩恵により、製紙工場、なめし革、選択屋、ブランデーの倉庫等々、様々な産業をアングレームにもたらした。まさにそれを彷彿とさせる川の豊かさだ。もっとも、小説ではその流域の商業発展地域と高台の町の二重構造、商人と貴族階級の二重構造が描かれているのだが・・・ちなみに、『ゴリオ爺さん』の準主役ラスティニャックの妹がこの町の上流社会に登場している。
 14時半頃のTGVを予約してあったので、いつまでも、アベさんの店でおしゃべりをしていられない。ポワティエまではTGVで50分弱、15時半頃到着する。今日は、ダブルヘッダーの日。あとはポワティエ見学だ。
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フランス旅行 | 15:59:35 | Trackback(0) | Comments(0)
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